論文誌編集委員会
2017年に出版された自然言語処理24巻1号から5号に掲載された論文25編より,賞に相応しい論文を推薦することを目標として,乾副編集長を選考委員長,編集委員を選考委員とする編集委員会を編成し,以下の手続きで選考を実施しました.
(1) 候補論文の決定:上記25編の論文のうち,査読点数が5点満点で4点以上の論文および担当編集委員から推薦のあった論文を候補論文とし,計12編の論文を一次投票の対象としました.
(2) 一次投票:31名の選考委員がそれぞれ約2編の論文を読み,10点満点で採点しました.論文はCOI(※)を考慮して割り当てています.一論文あたり5名の委員が審査し,5名の平均点が7点以上となった上位4編の論文を選出しました(5位以下は4位との得点差が大きく,ここで切るのが妥当だと判断しました).
(3) 二次投票:乾副編集長を選考委員長として,COIのない9名を審査員とする最終選考委員会を編成し,上位4編の論文を対象に,全委員が全論文を読んだうえで,二次投票を行いました.
(4) 最終選考委員会審議:一次投票および二次投票の結果を受けて最終選考委員会で審議しまし,上位1編の論文を最優秀論文賞候補,残りの3編をすべて論文賞候補に推薦することを全員一致で決しました.
(最優秀論文賞)
著者名: 笹野 遼平・奥村 学
論文タイトル: 大規模コーパスに基づく日本語二重目的語構文の基本語順の分析
(論文賞)
著者名: Keisuke Sakaguchi and Ryo Nagata
論文タイトル: Phrase Structure Annotation and Parsing for Learner English
著者名: 下岡和也・徳久良子・吉村貴克・星野博之・渡部生聖
論文タイトル: 音声対話ロボットのための傾聴システムの開発
著者名: 関 喜史・福島良典・吉田宏司・松尾 豊
論文タイトル: 多様性の導入による推薦システムにおけるユーザ体験向上の試み
以上,4編の論文については第24回年次大会で招待論文として講演いただきました.
※COIについて:
選考にあたっては,以下の条件に一つ以上該当する委員は,当該論文の議事に参加せず,審査を実施した.
・著者である
・著者と現在同じ組織に所属している
・著者と過去1年以内に共同で研究している
第24回年次大会委員長 山本 和英(事業担当理事・長岡技術科学大学)
同 プログラム委員長 林 良彦 (早稲田大学)
同 実行委員長 竹内 孔一(岡山大学)
○ 場所・期日
言語処理学会第24回年次大会は,岡山コンベンションセンター(ママカリフォーラム)において,次のとおり開催されました.
チュートリアル 2018年3月12日(月)
本会議 2018年3月13日(火)〜15日(木)
ワークショップ 2018年3月16日(金)
○ 参加状況
今大会も歴代最多の参加者数となりました.前回とは異なって地方での開催となったので若干の参加者減を予想していましたが,依然として人工知能ブームは継続しており,約1,000名の方にご参加いただきました.本大会の特徴として,大学教員等,大学学生,民間企業等の参加比率が3分の1ずつという傾向がありますが今大会も同様でした.また参加者の半数以上が非会員でした.
事前受付 771名
当日受付 198名
招待者 14名
合計 983名
○ プログラム概要
本会議 (3月13日〜15日)
合計332件の研究発表がありました.内訳は次の通り (カッコ内はNLP2017の数字) です.口頭発表,ポスター発表とも前回を上回る結果となりましたが,口頭発表の件数が増えたのがやや特徴的です.
・口頭発表(一般) 160 (125) 件
・口頭発表(テーマセッション) 16 (31) 件
・ポスター発表 156 (145) 件
■テーマセッション
公募により設定された以下の2つのテーマセッション (NLP2017では3つ) が開催されました.
・言語教育と言語処理の接点 (発表件数:10件)
・翻訳における人間と機械の協働: for what, how, where, when and why? (発表件数: 6件)
■招待講演
以下の2名の先生をお招きし,招待講演を実施しました.
・定延 利之 先生(京都大学教授)
「非流ちょうな音声言語の規則性をさぐる」 (3月13日)
・戸次 大介 先生(お茶の水女子大学准教授)
「理論言語学と自然言語処理と」 (3月15日)
■招待論文講演 (3月15日)
雑誌「自然言語処理」に発表された論文の中から選出された以下の4件の論文についての発表が行わました.
・音声対話ロボットのための傾聴システムの開発
下岡和也・徳久良子・吉村貴克・星野博之・渡部生聖
Vol.24 No.1, pp.3-47
・多様性の導入による推薦システムにおけるユーザ体験向上の試み
関 喜史・福島良典・吉田宏司・松尾 豊
Vol.24 No.1, pp.95-115
・Phrase Structure Annotation and Parsing for Learner English
Keisuke Sakaguchi and Ryo Nagata
Vol.24 No.3, pp.491-514
・大規模コーパスに基づく日本語二重目的語構文の基本語順の分析
笹野 遼平・奥村 学
Vol.24 No.5, pp.687-703
■チュートリアル (3月12日)
初の試みとして,学生プログラム委員の企画による「学生のキャリアビジョン」をテーマとするチュートリアルを開催しました.以下の若手研究者の方による3件の講演が行われました.
・失敗した後に取り組むべきこと/ 江里口瑛子さん(東京大学)
・新設研究センターで働くということ/ 吉川友也さん(千葉工業大学)
・若手大学教員の仕事/ 進藤裕之さん(奈良先端科学技術大学院大学)
また,通常のチュートリアルは,以下の4つのテーマについて例年同様に実施しました.
・ゼロから始める深層強化学習/ 前田新一先生,藤田康博先生(プリファードネットワークス)
・手話と日本語の関係/ 坊農真弓先生(国立情報学研究所)
・自然言語で書かれた数学問題を計算機で解く/ 松崎拓也先生(名古屋大学)
・「カチン」の言語のフィールドワーク/ 澤田英夫先生(東京外国語大学)
■ワークショップ (3月16日)
公募により設定された以下の2つのテーマセッション (NLP2017では特別ワークショップ1件) が多くの参加者を集めて開催されました.
・形態素解析の今とこれから/ 代表提案者: 工藤拓(グーグル)
・言語処理研究者・技術者の育成と未来への連携/ 代表提案者: 賀沢秀人(グーグル)
■スポンサーイブニング (3月12日)
スポンサー企業・組織と参加者(とくに学生) との交流を目的として,今回,初めて実施しました.会場や時間の制約があるなか,まさに手探りでの実施という形となりましたが,結果としては大変に好評でした.
■ミニシンポジウム: 自然言語処理の歩みとこれから (3月14日)
標記のタイトルでミニシンポジウム (企画: 飯田仁先生 (東京工科大学名誉教授); 登壇者:辻井潤一先生 (産総研人工知能研究センター長),河原達也先生 (京都大学教授) を実施しました.限られた時間の中で活発な議論が行われました.
○ 総括
言語処理学会第24回年次大会は,岡山コンベンションセンター(ママカリフォーラム)において,2018年3月12日(月)〜16日(金)の日程で開催しました.参加者は,事前受付771名,当日受付198名,招待者14名の合計983名となり,過去最高を更新しました.会議全体として活気に溢れ,分野の盛況ぶりを感じることができる大会となりました.
運営は,事業担当理事を中心とした大会委員会の下にプログラム委員会と実行委員会を配置して進めています.発表申込,参加申込の手順は従来のものを踏襲し,安定した運営を行うことができました.参加費支払いのクレジット決済は,今回はおよそ7割以上の方にご利用いただき,すっかり定着しました.
プログラムにおいては,以下に示す,ここ数年間の内容・フォーマットを基本的には踏襲しつつ,若手チュートリアル,スポンサーイブニング,ミニシンポジウムなどの新企画を実施しました.
・オープニングセッションおよびクロージングセッションの実施
・発表申込と論文投稿の同時受付
・ダウンロード形式での予稿集の配布と予稿集CD-ROMの廃止
・学会論文賞受賞者による招待論文講演
・大会賞(優秀賞および若手奨励賞)の事前選考と大会クロージングセッションでの表彰
これらは,年次大会のスタイルとして定着したと考えていますが,一方で,時間的な制約や会場の制約の中で,今後も安定的に増える (ことが期待される) 研究発表や企画をどのように配置していくかに関して,見直しを図る必要があると思われます.例えば,現在は最大5並列で実施している口頭発表セッションの並列度を上げること,口頭発表の発表時間を調整すること,より多くのポスター発表を実施すること,テーマセッションとワークショップの役割分担を見直すことなどが考えられます.
大会賞に関しては,総勢176人におよぶ皆様 (注) に一次審査をお願いし,別記事にて詳しくご報告する選考過程により,最優秀賞2件,優秀賞4件,若手奨励賞9件の論文を選定し,例年どおり大会クロージング時に発表・表彰することができました.選考過程の効率化と審査の質の向上の両立は常に大きな課題ですが,今回は,一次審査の精度を高めることを重視したため,審査を担当頂いた皆様には多くの労力を割いていただくこととなりました.ここに深くお礼を申し上げるしだいです.なお,昨年より設定された言語資源賞については,言語資源協会との密接な協調によりスムーズに選考・表彰の実施が行われました.
(注) 審査にご協力いただいた方の一覧を下記にて公開しています.
http://www.anlp.jp/nlp2018/#firstreviewers
大会会場については,多大なるご支援のおかげで初のコンベンションセンターでの開催を決断し,交通や宿泊の利便性,及び会場環境という意味ではほぼ理想的な環境で開催することができました.会議場開催は前例のないことですので,2年以上前から学会で慎重に調査と検討を重ねてきたのですが,今回無事に実施することができて主催者としてほっとしています.このため若干の参加費値上げも同時に実施しましたが,参加者の増加,及びスポンサーの増加によって会議全体の収支として黒字とすることができました.
大都市圏から離れた開催であったにも関わらず,330件を超える研究発表,980名を越える参加者,50社を超えるスポンサー様と大盛況となりました.また,託児所を初めて開設し,また冠スポンサー様のご支援をいただくことができました.さらに,学生の皆様とスポンサー様との交流を促進するために,スポンサーイブニングの開催を行いご好評頂きました.スポンサー様との朝食会を実施させていただき,今後の協力と発展にむけた実りある情報交換の場とさせて頂きました.スポンサーの皆様には,今後も一層のご支援・ご協力をお願いできればと考えます.
この他,会議全体を通して前例主義に囚われず「まずやってみよう」という方針で運営を行いました.参加証の色分け(一般,学生)も今年初めて実施しましたし,参加者と一般社会に向けてTwitterでの情報発信も継続的に行いました.参加者増に伴う会場変更・中継会場追加もできるだけ対応し,(直前の変更による若干の混乱を恐れず)できるだけ聴講者の利便性に配慮しました.これらがどの程度意味があったのかは参加者の皆さまのご感想を待ちたいと思います.
以上のように会議全体としては概ね好評だったと認識していますが運営上の問題点も複数ありました.最大の問題は大会の肥大化で,これ自身は学会として好ましいことですが現状の運営体制やプログラムフォーマットがそれに追いついていません.例えば今回の大会では従来のフォーマットに過去最大規模の発表件数を詰め込んだため,休憩時間が短い,終了時間が遅いというご不便をおかけしました.これについては学会も改革の必要性を十分に認識しており,今後何らかの改善がされることと思います.
今後も,学会会員にとってより有効な情報交換の場となるように,必要な改善をおこない,年次大会をますます発展させていきたいと考えています.今回,初めての試みとして,年次大会終了後にアンケートを実施し,非常に多くの方々から様々なご意見を頂戴することができました.ここでのご提案,ご要望は次回の年次大会運営に引継ぎ,可能なものから反映させたいと考えています.あわせて,皆様からのご意見・ご提案をお待ちしています.
第24回年次大会プログラム委員長 林 良彦(早稲田大学)
□ 言語処理学会第24回年次大会優秀賞・若手奨励賞の選考について
言語処理学会年次大会の大会賞には優秀賞と若手奨励賞があります.優秀賞は,年次大会において論文の内容に優れたものと認められた発表論文に与えられる賞です.また,優秀賞のうち特に優れたものがあれば,最優秀賞として選定されます (言語処理学会年次大会優秀賞規定).一方,若手奨励賞は,年次大会において論文の内容に優れたものと認められた発表論文に関して,以下の条件を満たす者に与えられる賞です (言語処理学会年次大会若手奨励賞規定).
年次大会の開催年の4月1日において満30歳未満のもの
当該論文の筆頭著者であること (今回より変更)
過去に優秀(発表)賞を受賞していないこと (今回より変更)
過去に若手奨励賞を受賞していないこと
近年の年次大会の場合と同様に,今大会においても大会の開始前に全論文を対象に行った審査により大会賞を決定し,大会のクロージングにて表彰を行いました.
大会賞の選考のための内規では,
優秀賞の中で特に評価の高いものを0件から2件の範囲で最優秀賞とする.
優秀賞は全発表件数の約2%を目安とする.
としており,これは変わりませんが,
若手奨励賞については,若手研究者をエンカレッジするという目的から,
最大10件程度を選出する.
と内規を改訂いたしました.
今回の年次大会では332件 (前回 301件から約10%の増加) が優秀賞の対象となる論文であり,優秀賞の授賞件数は6〜7件を目安としました.また若手奨励賞の対象となる論文は215件 (前回198件から約9%の増加) でした.
年次大会優秀賞・若手奨励賞の選考にあたっては,選考委員会を組織し,慎重な議論を重ねた上で選定を行いました.今回,選考委員会は計176名 (前回137名から約28%の増加) で構成されました.各授賞論文には議論で合意された授賞理由が付記されます.また,責任を明確にするために,最終選考に関わる委員の名前を公表します.ただし,最終的な責任は本大会プログラム委員長の林良彦が負うものとします.
大会賞の選考は,1次選考と最終選考の二段階で行いました.1次選考に先立ち,全ての論文を3つのグループ (言語学・言語分析,基盤技術・言語資源,応用技術) に分け,各グループを専門とする選考委員を,各論文に対し5名 (従来3名) 割り当て,審査を行いました (この過程を1次審査と呼びます).1次審査委員はそれぞれ10件 (従来7件) 程度の論文を担当し,各論文に対して,総合評価 (5段階),新規性 (5段階),有用性 (5段階),読みやすさ (5段階) で審査しました.この際,優秀賞に推薦する論文については推薦理由を記述するようお願いしました.また,若手奨励賞の対象論文については,同賞に推薦するかについても5段階で審査を行い,同様の推薦理由の記述をお願いしました.
1次選考および最終選考は,1次審査結果を参考に優秀賞と若手奨励賞の選考を個別に実施しました.
★ 優秀賞の選考
優秀賞の1次選考では,1次審査の評価点を基準としてリストアップされた26件の論文から合計点が16点以上の論文13件を4名の委員 (相澤彰子委員は前回プログラム委員長として特に協力いただきました) により選定し,最終選考委員会で審議することとしました.今回の大会では,事前にプログラム委員を中心に事前にプールされた最終選考委員候補の中から利益相反を考慮し,以下の9名からなる優秀賞選考委員会を組織しました(丸山岳彦委員はプログラム委員ではありませんが,ご専門を考慮し,特に選考委員をお願いしました).本委員会の委員長は,候補論文の利益相反を考慮し,本大会プログラム委員長の林良彦が担当しました.
第24回言語処理学会年次大会優秀賞最終選考委員
林 良彦 (委員長,早稲田大学)
大野 誠寛 (東京電機大)
大附 克年 (マイクロソフト)
佐々木 裕 (豊田工業大学)
進藤 裕之 (NAIST)
徳久 雅人 (鳥取大学)
丸山 岳彦 (専修大学・国語研)
三浦 康秀 (富士ゼロックス)
吉永 直樹 (東京大学)
最終選考では,まず上記13件の優秀賞候補論文を全員で審査し,事前の重み付き
投票を行った後,遠隔会議 (9名の委員中7名が出席) を実施しました.そこでの
慎重な討議の結果,6件を優秀賞として推薦することとし,中でも高い評価を集
めた上位2件を最優秀賞に選定することとしました.
■言語処理学会第24回年次大会 最優秀賞 (2件: 発表番号順)
C6-1 深層コード学習による単語分散表現の圧縮
○朱中元, 中山英樹 (東大)
本論文は,単語の分散表現モデルを圧縮する方法を提案しています.既に分散表現モデルの学習と圧縮を同時に行う手法等が存在しますが,本論文では,既に獲得された分散表現を,基底ベクトルの組み合わせにより近似するアプローチをとっています.具体的には,分散表現を,基底ベクトルに対応したサブコードの組み合わせによりコード化します.コードと基底ベクトルの学習は,encoder-decoderモデルにより行いますが,Gumbel-softmax を使った擬似的な離散化により,本来微分できない離散的なコードの学習を可能にしているところに特徴があります.本手法の効果は,感情分析タスクと翻訳タスクを対象にした複数の実験により検証されています.分散表現モデルのサイズを大幅に削減することで,タスクで利用した際の性能悪化が懸念されますが,実験では,逆に一種の正則化の効果により,圧縮したモデルを利用することで各タスクのスコアが少し向上することが示されており,非常に興味深い結果となっています.論文としての完成度も高く,最優秀賞にふさわしい論文と判断いたしました.
D5-2 情報検索とのマルチタスク学習による大規模機械読解
○西田京介, 斉藤いつみ, 大塚淳史, 浅野久子, 富田準二 (NTT)
大規模機械読解のタスクにおいては,回答を含む可能性のあるパッセージを絞り込んだうえで,通常の機械読解のタスクを行う必要があります.本論文は,前者を行うための情報検索と後者の機械読解をマルチタスク学習により行う手法を提案し,評価実験によりその有効性を検証しています.提案された手法は,既存の機械読解のニュラルネットワークモデルに情報検索を行う層を追加するものですが,いくつかの中間層を共有するという点に特徴があります,また,処理の効率性を維持するために様々なテクニックを導入しています.評価実験においては,英語における標準的なデータセットであるSQuADを利用するのに加え,独自の日本語のデータセットも構築しており,この点も高く評価されます.総じて本論文は,これらの提案手法・資源の有用性に加え,得られた知見が丁寧に整理され論じられていることから,最優秀賞にふさわしいと評価しました.
■言語処理学会第24回年次大会 優秀賞 (4件: 論文番号順)
A1-1 ニューラルヘッドライン生成における誤生成問題の改善
○清野舜 (東北大), 高瀬翔, 鈴木潤 (NTT), 岡崎直観 (東工大), 乾健太郎 (東北大/理研AIP), 永田昌明 (NTT)
本論文では,ヘッドライン生成のような損失あり圧縮生成タスクにおいて,誤生成問題の発生を軽減するため,エンコーダデコーダモデルを拡張した手法を提案しています.具体的には,デコーダにおいて,出力側トークンを予測するだけでなく,それに対応する入力側トークンを同時に予測するモデルを提案しています.損失あり圧縮生成タスクのみならず,エンコーダデコーダモデルを活用する研究に対して,幅広く有益な知見をもたらす研究だと思われます.また,評価実験においても,単純なエンコーダデコーダモデル等のベースラインや既存手法との間で,定量的かつ定性的な比較評価・分析を実施しており,提案手法の有効性が示されています.論文としての完成度も高く,優秀賞にふさわしい論文と言えます.
B1-5 サブワード正則化: 複数のサブワード分割候補を用いたニューラル機械翻訳
○工藤拓 (グーグル)
ニューラルネットワークに基づく機械翻訳モデルでは,語彙サイズに依存した計算量が必要となるため語彙サイズを制限する必要があります.サブワード化は語彙サイズを低く抑えつつ被覆率を上げる手法として広く用いられていますが,サブワードによる分割には曖昧性があり複数の分割候補が生じてしまいます.本論文では,複数のサブワード分割候補から動的にサンプリングを行うことにより,サブワード化の曖昧性を克服しつつ頑健性を高めることを目指しています.日本語を含む様々な言語対とサイズの異なるコーパスを用いた評価において,安定した有効性が示されており,今後ニューラルネットワークに基づく機械翻訳および様々な自然言語処理システムの標準的なモジュールとなっていく可能性もあることから,優秀賞にふさわしい論文だと判断しました.
E1-2 Entity-Centricな述語項構造解析・共参照解析の同時学習
○柴田知秀, 黒橋禎夫 (京大/CREST)
本論文では,共参照解析で利用されているエンティティの情報を述語項構造解析においても利用する,述語項構造解析・共参照解析の同時学習手法を提案しています.提案手法は,文内の解析を中心とする近年の研究から脱却し文間の解析を試みた手法といえ,大変興味深い内容となっています.実験においては,複数のコーパスを用いて格別および先行詞の位置別に精度を丁寧に比較しており,提案手法の有効性を定量的に示しています.特に,従来難しかった文間ゼロ照応解析の精度を向上させている点については高く評価できます.提案手法に含まれる文間の情報をとらえるための基本的概念は応用範囲も広く,今後の発展性も高いと考えられるため,優秀論文にふさわしい論文であると判断いたしました.
P11-3 依存構造の連鎖を考慮したニューラル文圧縮
○上垣外英剛 (NTT), 林克彦 (阪大), 平尾努, 永田昌明 (NTT)
本論文は,依存構造木に基づく文圧縮の問題において,高次の依存関係を選択的に考慮することができる新たなモデルを提案しています.また,高次の依存関係に対する重みを効率的に計算するために,再帰的な注意機構のモデル化を行っており,実用的です.提案手法は,文圧縮の実験において,特に深い依存構造を持つ文の圧縮へ有効であることを示しており,独自性,有効性の観点から優秀賞にふさわしい論文と言えます.
★ 若手奨励賞の選考
今回の年次大会では,若手奨励賞の1次選考(最終選考に進む論文の選定)は,優秀賞の審査とは独立して1次審査の評価結果に基づいて決定することにしました.これは,各論文に対する1次審査員の数を5名に増員したことで1次審査の評価が安定したと判断したためです.1次審査の段階で若手奨励賞の対象となる論文については,若手奨励賞に推薦するかどうかを5点満点で評価してもらいました.この5名による評価の合計得点が16点以上の論文16件,および15点以上の論文のうち大会賞担当プログラム委員が審査コメントを精査し選定した3件をあわせた計19件が最終選考対象論文として推薦されました.若手奨励賞最終選考では,候補論文の利益相反を考慮して本大会プログラム副委員長の佐々木裕を委員長とする以下の4名が選考にあたりました.ただし,利益相反にあたる論文に関しては当該の委員は評価に加わっていません.
第24回言語処理学会年次大会若手奨励賞最終選考委員
佐々木 裕 (委員長,豊田工業大学)
相澤 彰子 (NII)
後藤 功雄 (NHK)
林 良彦 (早稲田大学)
まず,19件の候補論文のうち,1次審査の合計得点が17点以上の論文9件について審議しました.審議の結果,優秀賞に選定された3件を除く6件を若手奨励賞に選定しました.続いて,合計得点が16点以下の論文10件から選考委員の投票により上位3件を若手奨励賞に選定しました.最終的に下記の9件が若手奨励賞受賞論文に選定されました.
■言語処理学会第24回年次大会 若手奨励賞 (9件: 論文番号順)
B2-4 ニューラルネットを用いた多方言の翻訳と類型分析
阿部 香央莉 (東北大)
本論文は日本語の方言翻訳に対して,多言語翻訳を行うNMTを利用することを提案しています.提案手法では,多言語NMTに基づいて地域ラベルを入力系列の先頭に追加しています.また,方言・共通語間で語順の並び替えが起きないという前提で,入力系列を文節単位としています.導入した地域ラベルの埋め込み表現間の近さを分析したところ,従来の方言研究と一致する結果が得られた点は非常に興味深いと思います.方言研究のツールとしてNMTが活用できる可能性を示した功績は大きく,今後の研究の発展に期待して,若手奨励賞に選定しました.
B3-6 言語横断的情報検索の大規模データセットとパラメータ共有モデル
佐々木 翔大 (東北大)
直接モデリングアプローチによる言語横断的情報検索方式を提案している研究であり,特にパラメータ共有により,リソースリッチな言語対に対する学習結果がリソースプアな言語対の検索において適用可能であることを実験によって示しています.また,Wikipediaの多言語性を利用し,大規模な学習・評価データセットを構築した点も高く評価でき,若手奨励賞として選定しました.
B7-3 DRQNによる幼児の語彙獲得のモデル化
野口 輝 (電通大)
Deep Recurrent Q-learning Network (DRQN) を使った幼児の語彙獲得のモデル化に関する新規性が高い研究であり,認知科学の分野で注目を集めている記号接地問題の部分的解決を目指している点が評価できます.8つの物体名称・動作に対して6つの特徴を幼児が獲得する課題を実施し,形状バイアスや名詞バイアスが学習の過程から獲得できる結果が得られています.今後の発展が期待できることから,若手奨励賞として選定しました.
C4-5 読解による解答可能性を付与した質問応答データセットの構築
鈴木 正敏 (東北大)
本論文は,読解タスクにおいて解答可能性に関する情報を付加した日本語データセットを作成しています.応用システムでは取得した文書中に回答がないことを判断できる必要があり,この性能を評価することができるデータセットになっています.そして,研究利用可能な形式で公開予定としている点で,当該分野の今後の発展に大きく寄与する研究と考えられます.さらに,既存のモデルをベースにして,回答不可能を判断する実験を行なっており,この結果は本タスクのベースラインとして有用と考えられます.データセットの新規性と有用性および今後の発展に期待して,若手奨励賞に値すると判定しました.
C5-4 自然言語処理における解釈可能な敵対的摂動の学習
佐藤 元紀 (NAIST)
敵対的サンプル生成のため単語ベクトルに摂動を与える際に,周辺単語に近づくような摂動を与えることで,可視化できる敵対的サンプルを生成する研究であり,IMDBのデータセットを用いた評価で既存の敵対的学習を上回る性能を示しています.一般に敵対的学習は学習が上手く行っているかどうかの判断が非常に難しいが,本論文の手法で敵対的サンプルを可視化することで,分類器の性質が理解しやすくなることは,研究開発上の有用性が非常に高いと考えられます.今後モデルの改良につながる分析ができるようになることを期待し,若手奨励賞に選定しました.
E5-3 自然演繹に基づく文間の含意関係の証明を用いたフレーズアライメントの試み
谷中 瞳 (東大)
自然演繹に基づく文間の含意関係の証明の実行過程に対して,フレーズ間アブダクションを用いてフレーズアライメントを特定し,含意関係を推論する方法を提案しています.丁寧に書かれている論文であり,また,提案手法を機械学習や他の論理推論の手法などと比較して評価を行い,客観的な結果を提示しています.今後の発展にも期待して,若手奨励賞に選定しました.
E6-1 因果関係に基づくデータサンプリングを利用した雑談応答学習
佐藤 祥多 (東北大)
本論文では,seq2seqモデルを用いた非タスク指向型の対話応答文生成において,因果関係知識に基づいて訓練データをサンプリングすることの有効性が検証されています.評価実験では,訓練データサンプリングがseq2seqモデルに与える影響について,最新の分析技術を用いるなどし,十分な分析・考察が行われています.seq2seqモデルを用いた研究に対して新しい知見を提供していると評価でき,若手奨励賞に相応しい.
P4-21 敵対的生成ネットワークを用いた機械翻訳評価手法
松村 雪桜 (首都大)
敵対的生成ネットワークの枠組みにより,通常のNMTと翻訳結果の品質評価を行うモデルを同時に学習する手法を提案しています.後者のモデルは,人手評価との相関という観点で,参照訳を用いる文単位のBLEU評価に近い性能を達成しました.敵対的生成ネットワークにより学習した識別器の確信度を品質評価に使うというアイデアが高く評価できることから若手奨励賞に選定しました.
P10-4 知識ベース埋め込みのためのペアワイズ積L1正則化
真鍋 陽俊 (NAIST)
本論文は,知識ベース補完の手法として提案されている複素埋め込みの性質に着目して,関係の対象性に着目して関係埋め込みの計算に工夫をしています.関係の非対称性の度合いを自動調整するという新しいアイデアを持ち込み,ペアワイズ積によるL1正則化という提案をしている点は高く評価できます.十分なデータ量がある場合に大きな効果が出ない理由も考察されており,総じて若手奨励賞に値すると判断しました.
総務担当理事 駒谷和範(大阪大学)
日時: 2018年3月13日(火) 12:50〜13:30
場所: 岡山コンベンションセンター 4F405 (4階405会議室)
出席者: 代議員27名(内,書面による議決権行使者9名),理事:14名,監事:2名
議題
■第1号議案 2017年度決算報告
資料「第24回通常総会」に基づき,2017年度の決算報告があり,その内容が承認されました.
■第2号議案 理事の選任
以下の15名が理事として選任されました.
佐藤理史(名古屋大学), 奥村学(東京工業大学), 乾健太郎(東北大学),
黒橋禎夫(京都大学), 宮尾祐介(国立情報学研究所), 中野幹生(HRI-JP),
山本和英(長岡技術科学大学), 金山博(日本アイ・ビー・エム株式会社),
新納浩幸(茨城大学), 荻野紫穂(武蔵大学), 荒牧英治(奈良先端科学技術大学院大学),
落谷亮(富士通研究所), 山下達雄(ヤフー株式会社), 鶴岡慶雅(東京大学), 駒谷和範(大阪大学)
■第3号議案 監事の選任
以下の2名が監事として選任されました.
永田昌明(日本電信電話株式会社), 田中英輝(NHK放送技術研究所)
■第1号報告 2017年度事業報告
資料「第24回通常総会」に基づき,2017年度の事業内容が報告されました.
■第2号報告 2017年度監査報告
資料「第24回通常総会」に基づき,2017年度の監査の結果,会計監査,業務監査ともに問題のないことが報告されました.
■第3号報告 2018年度事業計画
資料「第24回通常総会」に基づき,2018年度の事業計画が報告されました.
■第4号報告 2018年度予算案
資料「第24回通常総会」に基づき,2018年度の予算案が報告されました.
■第5号報告 2018年度代議員構成
資料「第24回通常総会」に基づき,2018年度の代議員の一覧が報告されました.
配布資料
■第24回通常総会 資料:
http://www.anlp.jp/doc/gm/gm24_2018.pdf