言語処理学会30周年記念論文賞
言語処理学会30周年記念事業の一つとして、30周年記念論文賞の選考を行いました。学会誌『自然言語処理』の第21巻から第30巻(2014年3月発行の21巻1号から2023年12月発行の30巻4号)に掲載された論文の中から最優秀な論文2編を選出しました。受賞論文
タイトル:「ロボットは東大に入れるか」プロジェクト:代ゼミセンター模試タスクにおけるエラーの分析
著者:松崎 拓也,横野 光,宮尾 祐介,川添 愛,狩野 芳伸,加納 隼人,佐藤 理史,東中 竜一郎,杉山 弘晃,磯崎 秀樹,菊井 玄一郎,堂坂 浩二,平 博順,南 泰浩,新井 紀子
発行号・年:自然言語処理 23巻1号. 2016.
推薦理由:センター試験(現在の共通テスト)模試を題材として2016年頃当時の言語処理技術を評価し,そのエラー分析結果をまとめた論文である.プロジェクトの社会的インパクトは大きく,この10年で最も注目された研究の一つと言える.各科目における(当時の)自然言語処理技術の成功点、課題点を浮き彫りにしており,一部は大規模言語モデルによって解決されつつあるものの,現在でも残されている問題が多く含まれている.これらを踏まえると,現在の自然言語処理分野にとっても有用な論文である.また入試問題が知能の総合的なベンチマークになるというアイデアは、昨今の大規模言語モデルの評価にも通ずるところがある.その後の研究の方向性を与えた点,多数の研究に対して影響を与えた点においても,30周年記念論文賞にふさわしい.
タイトル:Universal Dependencies 日本語コーパス
著者:浅原 正幸,金山 博,宮尾 祐介,田中 貴秋,大村 舞,村脇 有吾,松本 裕治
発行号・年:自然言語処理 26巻1号. 2019.
推薦理由:本研究ではUniversal Dependencies (UD)に基づく日本語の依存構造アノテーションコーパスを開発している.UDは多言語共通のアノテーション方式を用いてコーパスを構築するプロジェクトであり,構文解析の分野において国際的に重要な取り組みである.既存のUDの枠組みとの比較を通じて日本語や日本語の言語処理固有の違いがどこにあるのかを丁寧にまとめた取り組みは,日本語の言語処理論文誌において重要な価値があると考える.さらに日本語の構文解析をUDの国際的な流れにのせ,国内外の研究者が日本語構文解析の研究に取り組む下地を作ったものであり,日本語の構文解析の発展に大きく貢献した.本コーパスに基づき開発された日本語の解析器は現在も様々な応用分野の基礎解析器として幅広く使用されていることから,日本語の言語処理の応用分野の発展にも寄与した研究と言え,30周年記念論文賞にふさわしい.
選考プロセス
1. 選考委員会の編成(2023年9月-2024年3月)【選考委員会】
理事会から指名を受け、黒橋禎夫副会長(現会長)、宮尾祐介副編集委員長(現編集委員長)、浅原正幸副編集委員長からなる選考委員会を編成しました。3名の合議により選考プロセスを策定しました。2014年から2023年の間に編集委員に従事していた78名に選考委員をお引き受けいただきました。
【選考委員会】
黒橋禎夫(副会長・現会長)
宮尾祐介(編集担当理事・副編集委員長・現編集委員長)
浅原正幸(副編集委員長)
【選考委員(敬称略)】
相澤彰子、赤間怜奈、荒瀬由紀、石垣達也、和泉絵美、磯沼大、伊藤薫、稲葉通将、井之上直也、岩倉友哉、海野裕也、江原遥、江里口瑛子、大内啓樹、大熊智子、大関洋平、岡崎直観、小木曽智信、小田悠介、乙武北斗、柏野和佳子、梶原智之、金丸敏幸、上垣外英剛、亀甲博貴、木村泰知、後藤功雄、小林颯介、小林隼人、古宮嘉那子、坂地泰紀、笹野遼平、重藤優太郎、柴田知秀、菅原朔、杉山弘晃、鈴木潤、須藤克仁、高瀬翔、高橋哲朗、高村大也、竹内孔一、田村晃裕、Chenhui Chu、坪井祐太、鶴岡慶雅、Kevin Duh、徳久良子、中川哲治、中澤敏明、永田亮、西川仁、西田京介、西田典起、二宮崇、能地宏、橋本力、林克彦、東中竜一郎、東山翔平、平岡達也、Yin Jou Huang、藤田篤、松崎拓也、松林優一郎、松吉俊、三浦康秀、美野秀弥、宮田玲、三輪誠、村脇有吾、谷中瞳、山田一郎、吉川将司、吉田光男、吉永直樹、吉野幸一郎、渡邉研斗
2. 一次選考(2024年4月-2024年5月)
学会誌『自然言語処理』の第21巻から第30巻に掲載された283編の全査読付き論文の中から、二次選考に残すべき論文を選択してもらう審査を行いました。同時に、COI がある論文を申告してもらいました。
【選考結果】
COIを除く得票率が5%を超える論文46件を二次選考対象論文として選定しました。
3. 二次選考(2024年5月-2024年6月)
二次選考対象論文46件の各論文について5名の選考委員を割り当て、独創性、インパクト、完成度、総合評価について5段階評価の審査を行いました。
【選考結果】
審査意見等を考慮の上、2名以上の総合評価が4以上かつ総合評価の平均が3.0以上の論文8件を最終選考対象論文として選定しました。
4. 最終選考(2024年6月-2024年7月)
最終選考対象の論文8件についてCOIがない荒瀬由紀編集担当理事・副編集委員長に最終選考委員長を依頼し、最終選考委員会を編成しました。対象論文についてCOIがない6名に最終選考委員をお引き受けいただきました。最終選考委員の合議と投票により、論文賞対象論文を選定しました。
【最終選考委員会(敬称略)】
荒瀬由紀(最終選考委員長)
海野裕也
江里口瑛子
大関洋平
田村晃裕
中川哲治
三輪誠
5. 推薦論文の決定(2024年7月)
最終選考委員会より推薦された2編の論文を30周年記念論文賞に選定いたしました。
なお、30周年記念論文賞の一次選考・二次選考にあたってはSoftconfシステムを使用し、選考委員会メンバーおよび選考委員がCOIのある論文については論文情報および審査情報を参照せず、審査に参加しないこととしました。最終選考は全対象論文についてCOIがないことを最終選考委員の条件として選考を行いました。