言語処理学会ニュースレター

Vol. 11 No. 2 (2004年5月10日発行)


目次

会長退任にあたって
会長就任挨拶
言語処理学会第10回年次大会報告
プログラム委員会からの報告
第10回通常総会報告
その他(IJCNLP04会議報告)


■会長退任にあたって■

島津 明(北陸先端科学技術大学院大学)

学会発足から節目の10年目を経過し、雑誌「自然言語処理」も軌道に乗って、年次大会も年毎に発表が増加し、何よりだと思っています。

言語処理学会は、言語学、計算機科学の研究者が共通に議論する場として、言語処理の研究成果を発表する場として、また、国際的な研究交流の場として作られました。

これらの点についてみると、研究成果の発表の場としては、雑誌「自然言語処理」の論文、年次大会の発表など、順調であると思います。

様々な研究者が共通に議論する場としては、ときに指摘されることですが、もっと多様性があったらと思います。学会が対象とする範囲が狭いと、会員は多くの知識や経験が共有できて、議論するのにも効率がよいと言えますが、会員の間では当然である前提や仮定はあまり問わないということになり、本質的な飛躍には多様な議論や異なった視点からの見方も必要と思われます。よってたつ仮定や前提に依存した技術の限界があり、それらを押えておかないと、意味のない研究開発をしてしまうかもしれません。

言語処理学会は言語に関する様々な領域の研究者に開かれていると思いますが、そのような方々の議論がどの程度あるのでしょう。分野が違うと、ものの見方、取り組み方、ものの言い方が違い、相互理解が難しいですが、現実にできている技術はまだまだだと謙虚に思えは、違う発想の話も聞けるようになるのではと思います。

多様性のある学会を醸成するためのよいアイデアがあるわけではありませんが、まずは、言語に係わる多様な研究者やその卵が集う土壌を作るために、また、互いの言葉が少しでも分かるようになるために、言語に係わるさまざまな分野に関するサマースクールのようなものを開催し、入門レベルからの講義をするのはどうでしょうか。いろんな分野の人に話をすることで、講義をする人にとっても、自分のしていることを見つめ直す機会になるかもしれません。これまで、年次大会のチュートリアルでは、言語学、言語処理、音声といった組合せで、できる限り進めてきましたが、どちらかというと話題のテーマが多かったように思います。

国際的な面に関しては、英文誌の問題があります。雑誌「自然言語処理」は日本語ということから国内に閉じています。よい研究成果は多くの人が見れるようになっていることが望まれます。言語処理分野の存在感にもつながってきます。海外に雑誌があるからよいとは一概には言えません。英文誌の発刊は、学会が発足していたときからの課題です。OUP からの発刊の話が進んでいましたが、OUP側の方針変更により、電子ジャーナル発刊に向けて仕切り直しとなり、中川新会長と新執行部に引き継ぐことになりましたが、なんとか実現できればと思います。

在任中、「自然言語処理」の編集・発行、年次大会の開催、業務の外注化、10 周年記念のCD-ROM化など、多くの方々の協力により進めることができました。厚くお礼申し上げます。

言語処理の課題は一朝一夕に解決されるものではないと思います。地道に一歩ずつ研究していく分野だと思います。言葉を味わいながら研究する人が学会にたくさん集い、素晴らしい成果が出ることを期待しています。


■会長就任挨拶■

中川裕志(東京大学情報基盤センター)

言語処理学会の発足から10年経過し、新しい 10 年に入ります。学会の主要活動である雑誌「自然言語処理」には質の高い論文が多数投稿され順調に進んでおりますし、年次大会についても発表論文ならびに参加者が増え、盛況です。しかし、従来より指摘されてきた、あるいは最近顕在化してきたいくつかの問題点もあります。ここでは次の10年を迎えるにあたって、会員のみなさまにも言語処理学会および自然言語処理分野の発展に寄与していただければと思い、これらの問題点を吟味します。
  1. 分野の固定化その1:
    最近の自然言語処理の研究がコーパスを情報資源とし、機械学習で問題を解決するという正統派が強固に構築されてきました。方法論の確立自体は分野の成熟ともいえるので、進歩であることは疑いないものの、発展という意味では必ずしもプラスばかりではありません。辻井先生が会長であったときに危惧されていた分野の広がりを欠く、特に文系の言語学の研究者があまり積極的でない、という問題を併発したことは問題であり、未だ有効な対策は見いだされていません。
  2. 分野の固定化その2:
    一方で、自然言語処理が大きな役目を果たすべき情報検索やWWW技術においても、当学会の浸透は十分ではありません。
  3. 英文論文誌:
    学会設立当時から企画されていた英文論文誌の刊行は紆余曲折を経たものの未だ実現されていません。最近、電子ジャーナル化の路線で島津前会長を中心に動きが出てまいりました。
 これらはいずれも、「自然言語処理」ってどんな分野なの?何の役に立つの?という素朴な疑問に我々がまだ十分に明快な答えを持っていないことと表裏一体のことのように思います。自然言語処理分野の社会的認知にはやはり実績を示すしかないのだろうと思います。はからずも10周年記念大会のパネルで長尾先生がおっしゃった「会員の方がひとつでもよいから完成度の高い魅力的なソフトウェアを世に送り出すことが望まれる」という言葉が端的に上で指摘した問題の処方箋なのだろうと私は考えます。この言葉のソフトウェアを「理論」、「データ」、「教育方法」、「雑誌」、「国際会議」などに置き換えることももちろん意義のあることと存じます。日々使用し、空気のような存在に思われている「言語」の大切さ、計算機処理の可能性などを人々に伝えていくように次の10年も努力していこうではありませんか。

■言語処理学会 第10回年次大会 報告■

大会実行委員長 徳永健伸(東京工業大学)

  1. 場所・日程
    言語処理学会第10回年次大会は東京工業大学西9号館において下記の日程で開催された。
    チュートリアル: 2004年3月15日
    本会議: 2004年3月16〜18日
    ワークショップ (2件): 2004年3月19日
  2. 内容
    • チュートリアル:
      セマンティックWebとコンテンツ管理 (和泉憲明:産総研)
      統計的機械翻訳ことはじめ (渡辺太郎:ATR)
      言語類型と文の構造?形態素配列規則を決定する原理? (町田健:名古屋大学)
    • 本会議:
      一般発表 125件、ポスター発表 57件
    • パネル「これまでの10年、これからの10年」
      島津明 (北陸先端大)、長尾真 (前京大総長)、田中穂積 (東工大)、
      飯田仁 (東京工科大)、辻井潤一 (東大)
    • 招待講演 :
      "The Boundary Between Sentence and Discourse: Annotation of Discourse Connectives and Their Arguments"
      Aravind Joshi (University of Pennsylvania)
      "Language Use and Linguistic Structure"
      Masayoshi Shibatani (Rice University)
    • ワークショップ:
      「固有表現と専門用語」:発表12件
      「e-Learningにおける自然言語処理」:発表11件
  3. 参加状況
    参加者数 事前 当日 合計
    本会議 388 119 507
    チュートリアル 111 13 124
    ワークショップ
    「固有表現…」 123 17 140
    「e-Learning…」 62 12 74
  4. 会計報告
    会計報告については、理事会の承認を得た上で、後日、改めてニュースレターにて報告する予定である。
  5. 総括
    昨年の反省を生かして本年度は会場を一箇所にまとめたので、セッション間の移動は楽だったのではないかと思う。ただ、参加者が過去最高であった昨年度をさらに上まわったため、セッションによっては会場が狭く、立見が出たほどであった。各会場の大きさと各セッションへの参加者の見積りは難しいとはいえ改善の余地がある。ポスター会場についても比較的ゆったりとスペースを確保することができたので、発表者と聴衆の活発な議論があちこちで見られ、非常に盛況であった。 個人的には第1回、第2回の年次大会の運営経験があるのだが、10年もたつとそのノウハウは一切忘却されており、準備が必ずしも万全ではなかった。一部の参加者の方には、御不便をおかけしたのではないかと思う。この場を借りてお詫びする次第である。

■第10回年次大会プログラム委員会からの報告■

大会プログラム委員長 板橋秀一(筑波大学)

今回は本学会創立10周年記念大会ということもあって、幾つかの記念行事が予想されることから少し多めに17名の委員を揃えました。当委員会では分担すべき役割が8種類ほどあり、各々2名づつと考えたのですが、実際には一人だけにお願いした役割もあって、もう少し少なくても良いように思いました。幸い、本会議での一般発表(口頭発表とポスター発表)が195件、本会議への参加者 507名を迎え、これまでで最大規模の大会となったことは喜ばしいことです。その一方で予稿集が足りなくなってしまい、一部の方にはCD-ROMの形でお渡しすることになり、ご迷惑をおかけしてしまいました。

今回の大会も初日に3件のチュートリアル、続いて3日間の本会議、最後に1日のワークショップ(2件)という形をとりました。10周年記念大会ということから記念のパネル討論を行い、本会議最終日には2件の招待講演を入れました。従来は3並列のセッション構成でしたが、今回は発表件数が多かった上に、総会、パネル討論、招待講演と盛りだくさんの行事があったので、ポスターセッションも含めて4並列となりました。パネル討論は、10周年を記念して歴代会長にご出席いただき、「これまでの10 年、これからの10年」というテーマで開催しましたが、フロアからも活発な意見が出され時間が足りないほどでした。

優秀発表賞の選考についてポスターセッションでは担当件数が多く、選考委員の負担が大きいという声がありましたので、今回は担当件数を口頭・ポスターともほぼ同じ程度にするよう配慮しました。さらに今回はPDFファイルでの論文提出をお願いしました。初めての試みのため、いろいろと不明な点があったのですが、発表申し込み受付・論文受付担当の方々のご尽力で実施することができました。

また、会長からの要請もあって今回は年次大会開催マニュアルの整備を行うことになりました。私は前年度プログラム委員の一人でしたが、それでも分からないことだらけでした。プログラム委員を初め、実行委員、座長等多くの方々のおかげで大会を無事に進めることができました。皆様のご協力に感謝します。毎年繰り返されるこのような苦労を少しでも緩和できるように、これまでの経験をできるだけ文書化するようにしました。まだ完全なものではありませんが、これをベースにこれから少しずつ改訂していけば、より使いやすいものになると思います。これを機会に、プログラム委員会の仕事全般について、実行委員会との切り分けを再考しても良いのではないかと思います。

■第10回通常総会報告■

日時 2004年3月17日 (水) 13時〜14時
会場 東京工業大学 西9号館 デジタル多目的ホール
(東京都目黒区大岡山2-12-1)
正会員220名(委任状160名を含む)の出席を得、会員の10分の1以上(当日現在、正会員631名)の定足を満たすことから通常総会が成立することが確認された後、第10回通常総会が開催されました。中川副会長の挨拶に引き続き、10周年論文賞、2003年度論文賞の表彰が行われました。その後、中川副会長を議長として選出し、下記の議題の審議が行われました。
  1. 2003年度の活動報告
     中川副会長より、2003年度の活動報告がありました。
  2. 2003年度会計報告
     仁科財務担当理事より2003度の会計報告があった後、江原監事より監査の報告が行われ、これが承認されました。
  3. 2004年度事業計画
     2004年度の事業計画について中川副会長より説明があり、これが承認されました。
  4. 2004年度の予算計画が仁科財務担当理事から説明され、これが承認されました。 
  5. 新年度からの評議員候補者、新会長および新幹事候補者が承認されました。
以上、ご報告いたします。 

(財務担当理事 仁科喜久子)

■会議報告■

2004年3月21日から25日に開催されたIJCNLP04(International Joint Conference of Natural Language Processing)に参加しました。この会議は、すでにご案内のとおり、言語処理学会も運営に協力している、アジア言語処理学会連合(AFNLP: Asian Federation of Natural Language Processing)主催の第一回のフラグシップ国際会議です。本会議に合わせて、AFNLPの会議も開催され、そこにも言語処理学会の代表として参加してきました。

今回の会議は中国の南に位置する海南島の三亜市にあるリゾートホテルで行われました。日本は薄ら寒い日が続いていましたが、会場のホテルの前の美しい海では、泳ぐこともできるほど暖かでした。この一角は近代的なホテルの建ち並ぶ亜熱帯のリゾート地で、中国にもこのような場所があるのか、というのが感想でした。

IJCNLP−04

IJCNLP04本会議には中国本土から約50名、それ以外から200名の参加を得て盛況でした。全体で211本の論文が投稿されており、内訳はアジアが80%、ヨーロッパ、およびアメリカがそれぞれ10%だったそうです。口頭発表の採択率は 31%と厳しく、質の高い論文が集められており、会場では熱心な議論が行われていました。内容は機械翻訳、要約など、言語処理のほぼ全分野をカバーしており、中国語、韓国語、日本語を対象にした研究が目立ちました。

残念ながらその他のアジア言語の処理についてはあまり発表がありませんでしたが、パネル討論の一つで、いわゆる話者の少ないアジア言語の情報処理に関する議論が行われました。ここではインドネシア語、マレー語、モンゴル語、チベット語、ウイグル語の研究者がそれぞれの言語の言語処理の現状を報告しました。日本語などにくらべれば、もちろんリソースやツールは少ないのですが、計算機への入力システムなどは作られているようで、今後いろいろな応用システムが期待されます。漢字入力に始まり形態素解析などの経験を積んできた我々の知識が大いに役立つものと思われます。学会としてもこれらの国々にいろいろ貢献ができるのではないでしょうか。

もう一つのパネル討論では北京オリンピック(2008年)で、中国が計画している、言語処理技術を駆使した情報サービスシステムの計画が紹介されました。多言語翻訳、音声認識、音声合成技術を駆使し、中国の旅行案内、スポーツ対戦成績紹介などを、いつでも、どこでも、だれにでも提供するのがねらいです。かなり野心的な計画で、パネリストや会場からは、対象や目標を絞るべきだとの意見が出ていましたが、どのようなシステムができるのか楽しみです。

なお、会議には、日本の言語処理学会など、アジア諸国の国内学会(韓国、台湾、中国)、国際学会のACLなどから寄付が寄せられるなど、国際的な協力という点でもうまく運営されていました。余剰金は、次回の会議開催に使われる予定になっています。

AFNLP国際会議計画委員会

AFNLPは、これまで国際会議計画委員会(Conference Coordination Committee)という委員会が中心になって、会の正式発足に向けた準備を行ってきました。今回の会合で、会則が承認され、また、会長が選出されることで、正式な活動母体が発足しました。初代の会長には香港城市大学(City University of Hong Kong)のBenjamin K. Tsou教授、副会長には東京大学の辻井潤一教授が選出されました。任期は2年で、基本的に副会長が次の会長に就任します。資金的な裏付けをどうするか、など今後の課題はありますが、学会としてもできるだけ AFNLPに協力して、アジアの言語処理研究をさらに活性化させたいものです。

また、次のフラグシップ国際会議、IJCNLP 05を韓国済州島で2005年10月頃に開催することも決められました。次回もぜひ多くの方に投稿、参加していただけますようお願い致します。皆様の協力で、今回と同様、次回も活発で質の高い国際会議にしたいと考えております。

(渉外担当理事 田中英輝)

学会に関する問い合わせは「(財) 日本学会事務センター大阪事務所」にお願いします.

(財) 日本学会事務センター大阪事務所:
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(財) 日本学会事務センター大阪事務所 (担当: 中倉佳奈子)
Tel: 06-6873-2780, Fax: 06-6873-2750
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ニュースレター担当(田村直良)
〒 240-8501 横浜市保土ヶ谷区常盤台79-7
横浜国立大学大学院環境情報研究院社会環境と情報部門
Fax: 045-339-5228
Email: tam@ynu.ac.jp

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