言語処理学会ニュースレター
Vol. 21 No. 2 (2014年6月27日発行)
目次
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言語処理学会第20回年次大会報告
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第20回年次大会 プログラム委員会からの報告
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言語処理学会第20回通常総会報告
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2013年度論文賞の選考 (既報)
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第20回年次大会優秀賞・若手奨励賞の選考について
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第21回年次大会について
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『自然言語処理』特集号テーマ募集のお知らせ
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言語処理学会20周年記念シンポジウム 参加案内
□言語処理学会第20回年次大会報告
第20回年次大会実行委員長 菊井玄一郎(事業担当理事・岡山県立大学)
第20回年次大会実施委員長 荒木健治(北海道大学)
◯ 場所・期日
言語処理学会第20回年次大会は,北海道大学(北海道札幌市)において,次の通り開催されました.
チュートリアル 2014年3月17日(月)
本会議 2014年3月18日(火)〜20日(木)
ワークショップ 2014年3月21日(金)
◯ 内容
プログラム委員会からの報告をご覧ください.
◯ 参加状況
事前受付 478名
当日受付 137名
招待者 24名
合計 639名
◯ 総括
言語処理学会第20回年次大会を,北海道大学(北海道札幌市)において,2014年3月17日(月)から21日(金)にかけて開催しました.参加者は,事前受付478名,招待者24名,当日受付137名の計639名(欠席の5名を含む)で,例年通り,盛況な大会となりました.
前回(第19回)の年次大会から立案・実施体制を見直し,事業理事を中心とした大会実行委員会の下に,プログラム委員会と現地実行委員会を配置し,チュートリアルの無料化,招待論文講演の開催など,いくつかの新しい基軸を打ち出しています.今年度はこれらに加えて,参加証の会場配布,今大会の優秀発表論文の表彰を含むクロージングセッションの開催などを新たに行いました.
さらに,今回は第20回という節目にあたることから,理事会の20周年記念事業担当チームを中心に「20周年記念特別招待講演」と「特別セッション」を企画しました.前者では京都大学名誉教授の長尾真先生,および,マイクロソフトリサーチアジアprincipal researcherの辻井潤一先生から大変示唆に富むご講演を頂きました.また,後者では過去20年にわたる当学会の年次大会予稿および論文をコーパスとした研究発表・討論が活発に行われました.
会計的には,渉外担当理事のご努力により,昨年を上回る多数のスポンサーにご協力頂き,大会収入の約3割を占めるまでに至りました.また,チュートリアルの無料化には,学会本体の活性化基金からのサポートを受けました.参加費は,ほぼ例年並に据え置きましたが,これらの収入増により,黒字決算となりました.
この数年,年次大会の参加者は,コンスタントに600名を越えるようになり,大会運営は,難しくなりつつあります.プログラム委員の皆様,現地実行委員会の皆様,さらには,参加者の皆さまの御協力により,今回の年次大会を無事終了できたことに,感謝致します.
□第20回年次大会 プログラム委員会からの報告
プログラム委員長 奥村学(東京工業大学)
第20回年次大会は,3月17日から21日まで北海道大学で開催され,昨年とほぼ同じ634名の参加者を得て,盛況のうちに終了しました.参加者の皆様,大会の企画・運営に御尽力いただきました皆様に厚く御礼を申し上げます.
以下は大会のプログラムの概要です.
○本大会
論文発表 (3月18-20日):289件
ポスター発表 |
144件 |
口頭発表(一般) |
132件 |
テーマセッション発表(「言語探究の手段としての言語処理」) |
9件 |
20周年記念特別セッション |
4件 |
○特別招待講演
長尾真氏(京都大学名誉教授) (3月18日)
「NLP の過去,現在,将来」
辻井潤一氏(Principal Researcher, Microsoft Research Asia)(3月20日)
「言語処理における特殊と普遍 日本の研究と世界の研究」
○招待論文講演(3月19日)
藤田早苗氏「画像検索を用いた語義別画像付き辞書の構築」
吉川克正氏「Markov Logic による日本語述語項構造解析」
鍋島啓太氏,渡邉研斗氏「訂正パターンに基づく誤情報の収集と拡散状況の分析」
西川仁氏「冗長性制約付きナップサック問題に基づく複数文書要約モデル」
○チュートリアル (3月17日)
「Deep Learning の基礎と言語処理への応用」
Kevin Duh 氏(奈良先端科学技術大学院大学)
「文書要約への数理的アプローチ」
高村大也氏(東京工業大学)
「幼児の言語発達研究:こどもが語彙を覚えていく道筋を探る」
小林哲生氏,南泰浩氏(NTT コミュニケーション科学基礎研究所)
「文法圧縮入門:超高速テキスト処理のためのデータ圧縮」
丸山史郎氏(株式会社Preferred Infrastructure)
○ワークショップ(3月21日)
「自然言語処理の発展に向けた情報共有・討論」
今回は20回の記念大会ということで,特別セッションおよび特別招待講演を実施しました.また,今年度は,昨年度始められた以下の試みを継続して実施しました.
・オープニングセッション
大会の開始を明確にするためにオープニングセッションを設け,発表の申し込み状況や会場に関する情報を提供しました.
・発表申し込みと論文投稿の一本化
従来,別々におこなっていた発表申し込みと予稿集論文投稿を一本化し,発表申し込みと同時に論文のカメラレディを投稿するようにしました.
・CD-ROMの廃止
従来,作成していたCD-ROM を廃止し,事前に指定したURLから予稿集をダウンロードしていただくことにしました.これによって,予稿集作成に必要な時間が短縮できると同時に経費も削減することができました.
・招待論文講演
2013年度の優秀論文賞に選ばれた論文の著者を年次大会に招待し,受賞論文の内容について講演をお願いしました.
また,今年度から以下のような新しい試みを実施しました.
・クロージング
大会の終了を明確にするためにクロージングセッションを設け,参加者の状況や次回大会に関する情報を提供しました.また,従来,大会賞の選考は大会終了後に開始し,選考された大会賞の表彰は次回大会期間中に開催される総会で行われていましたが,論文投稿直後から選考を開始し,クロージングセッションで表彰を行うことにしました.
このような試みには功罪があると思いますが,会場での印象では概ね好評だったのではないかと思います.年次大会は本学会会員にとって重要な情報交換の場となっており,今後も発展させていきたいと考えています.ご意見やご提案がありましたら学会までお寄せいただければ幸いです.
□言語処理学会第20回通常総会報告
白井清昭 (総務担当理事,北陸先端科学技術大学院大学)
・日時: 2014年3月19日(水) 12:10〜13:10
・場所: 北海道大学 工学部 B1棟 オープンホール
・出席者: 67名,有効委任状 143名 (内 議長への委任 143名)
まず,中岩会長より挨拶がありました.続いて,第19回年次大会最優秀賞1件,優秀賞3件,若手奨励賞5件の授賞式が行われました.また,2013年度論文賞の受賞論文4件のうち,最優秀論文賞の受賞論文が公表され,最優秀論文賞1件,論文賞3件の授賞式が行われました.
続いて,出席数が定足数を満たすことを確認し,第20回通常総会が開催されました.中岩会長が議長として選出され,以下の議題の審議が行われました.
・2013年度 事業報告
中岩会長,徳永編集委員長,隅田副会長より,資料「第20回通常総会」に基づいて2013年度の事業報告があり,その内容が承認されました.
・2013年度 決算報告,監査報告
資料「第20回通常総会」に基づき,田口理事より2013年度の決算報告,浦谷監事よりその監査報告があり,いずれの内容も承認されました.
・2014年度 事業計画
中岩会長,隅田副会長より,資料「第20回通常総会」に基づいて2014年度の事業計画の説明があり,その内容が承認されました.
・2014年度 予算案
田口理事より,資料「第20回通常総会」に基づいて2014年度予算案について提案があり,その内容が承認されました.
2013年度論文賞の選考 (既報)
2013年度編集委員長 徳永健伸(東京工業大学)
2012年の論文賞制度のリニューアルに基づき,2013年に出版された自然言語処理20巻1号から5号に掲載された論文25件から相応しい論文を推薦することを目標として,期間中の各号に掲載された論文のうち,査読点数が5点満点で4点以上の論文5件を対象に,以下の手続きで候補論文の選考を行いました.
(1) 5件の論文を1から5の選択肢とし,選考対象論文の著者を除く編集委員の全員が,全論文を読んだ上で各自1票投票しました.投票は過半数の投票者で有効とし,100%の投票率を得ました.
(2) 高得点を得た上位4件の論文を論文賞候補とし,うち最多得票数の論文1件を最優秀論文賞候補に推薦することに決しました.
(最優秀論文賞)
タイトル:「冗長性制約付きナップサック問題に基づく複数文書要約モデル」
著者:西川 仁,平尾 努,牧野 俊朗,松尾 義博,松本 裕治
発行号頁:Vol.20 No.4 pp.585-612
(論文賞)
タイトル:「画像検索を用いた語義別画像付き辞書の構築」
著者:藤田 早苗,平 博順,永田 昌明
発行号頁:Vol.20 No.2 pp.223-250
(論文賞)
タイトル:「Markov Logicによる日本語述語項構造解析」
著者:吉川 克正,浅原 正幸,松本 裕治
発行号頁:Vol.20 No.2 pp.251-271
(論文賞)
タイトル:「訂正パターンに基づく誤情報の収集と拡散状況の分析」
著者:鍋島 啓太,渡邉 研斗,水野 淳太,岡崎 直観,乾 健太郎
発行号頁:Vol.20 No.3 pp.461-484
以上,4件の論文については,第20回年次大会で招待論文として講演いただきました.
□第20回年次大会優秀賞・若手奨励賞の選考について
第20回年次大会プログラム委員長
奥村学(東京工業大学)
言語処理学会年次大会優秀賞は,年次大会において,論文の内容に優れたものと認められた発表論文に与えられる賞です.また,優秀賞のうち特に優れたものがあれば,最優秀賞として選定されます(言語処理学会年次大会優秀賞規定).同様に,若手奨励賞は,年次大会において,論文の内容に優れたものと認められた発表論文の発表者であり,かつ,以下の条件を満たす者に与えられる賞です(言語処理学会年次大会若手奨励賞規定).
・年次大会の開催年の4月1日において満30歳未満のもの
・講演者として登録かつ講演を行ったもの
・過去に優秀賞を受賞していないこと
・過去に若手奨励賞を受賞していないこと
昨年の大会まで,大会賞の選考は,年次大会を終了した後三ヶ月以上かけ審査し,次年度の大会で表彰してきました.今年の大会からは,参加者の利便性を考慮し,大会期間中に表彰することにしました.このため,全論文を対象に審査を行い,年次大会の開始前に大会賞を選定しました.
大会賞の選考のための内規では「優秀賞の中で特に評価の高いものを0件から2件の範囲で最優秀賞とする.優秀賞は全発表件数の約2%を目安とする.若手奨励賞の受賞者は数件(上限は5件)」と規定されており,今大会でもこれに基づいて選考を進めました.今回の年次大会では285件が優秀賞の対象となる論文であり,優秀賞の授賞件数は5-6件を目安としました.また若手奨励賞の対象となる論文は173件でした.
前回大会に引き続き,少人数の選考委員会を組織し,慎重な議論を重ねた上で選考を行いました.各授賞論文には議論で合意された授賞理由が付記されます.また,責任を明確にするために,最終選考に関わる委員の名前を公表します.ただし,最終的な責任は委員長の奥村が負うものとします.
大会賞の選考は,全論文を審査の対象にすることを除けば,昨年と同様のプロセスに沿い,1次選考と最終選考の二段階で行いました.1次選考では全ての論文を三つのグループ(言語学・言語分析,基盤技術・言語資源,応用技術)に分け,各論文に対し二名の選考委員を割り当て審査を行いました.計78名から構成される選考委員はそれぞれ6-8件の論文を担当し,各論文に対して,総合評価(5段階),新規性(5段階),有用性(5段階),読みやすさ(5段階),推薦理由を提出します.各グループの主査は選考委員の審査結果に基づいて論文を順位付け,各グループにおいて優秀賞候補4-5 件,若手奨励賞候補4-5 件を目安として候補リストを作成しました.この結果,優秀賞候補17件と若手奨励賞候補19件(両方の候補は7件)が最終選考へ進みました.また最終選考委員会の委員長は,利益相反を考慮し,加藤先生にお願いしました.
最終選考では,8名の委員からなる大会賞最終選考委員会を組織し,上記17件の優秀賞候補論文を全員で審査しました.全選考委員による重み付き投票および遠隔会議による討議の結果,6件を優秀賞として推薦することとしました.今年は授賞件数の目安5-6件に従った数の授賞となりました.上記6件のうち,特に高い評価を集めた上位2件を最優秀賞として推薦することとしました.
若手奨励賞については,最終選考では,1次選考で推薦された19件(うち7件が優秀賞候補をかねる)の中から,全選考委員による重み付き投票と討議の結果,まず優秀賞に選ばれた1件を除き,最終的に5件を若手奨励賞に選定しました.
言語処理学会第20回年次大会優秀賞最終選考委員会
加藤恒昭(委員長,東大)
石川開(NEC)
岩倉友哉(富士通研)
荻野紫穂(武蔵大)
佐々木稔(茨城大)
嶋田和孝(九工大)
増市博(富士ゼロックス)
吉田稔(徳島大)
■最優秀賞(2件)
A4-2 オラクル要約の列挙
○平尾努, 西野正彬, 鈴木潤, 永田昌明 (NTT)
オラクル要約とは,人間が生成した参照要約との間の評価関数の値が最大かつ,要約システムが出力可能な要約のことを指し,オラクル要約を得ることで,システム性能を詳細に分析できるようになります.本論文では,参照要約との Rougenを最大にする文集合をオラクル要約として見つけることを目的に,Rougenスコアの下限値と上限値を利用して探索候補を絞り込むことでオラクル要約を列挙する手法を提案し,従来手法ではできなかったすべてのオラクル要約を列挙することに成功しています.提案手法で得られる結果は,文の抽出に基づく要約システムの結果分析のための利用に限らず,文の抽出以外の要約手法の評価の際のベースラインの一つとしての利用が考えられるなど,今後の要約研究に貢献すると期待されます.
A5-3 共参照解析のための事象間関係知識の文脈化
○井之上直也 (デンソー・東北大), 杉浦純, 乾健太郎 (東北大)
本論文は,大規模な事象間関係知識データベースを構築し,さらにその知識の使い方について着目することで,獲得した知識が言語解析の精度向上に寄与することを示した論文です.従来の研究では知識獲得時に失われてしまう周辺文脈を,提案手法ではデータベースに一緒に保持することで,知識獲得時と知識適用時の双方で周辺文脈を利用することの有効性を示しています.コーパスから約2.3億個の大規模な推論事例を獲得し,それを Winograd Schema Challenge へ適用しています.実験では,単に大規模な知識を適用するだけでは十分ではなく,文脈を考慮する提案手法の有効性が示されています.今後の深い言語処理への発展のために有益な知見を提供する論文です.
■優秀賞(4件)
A1-2 A joint inference of deep case analysis and zero subject generation for Japanese-to-English statistical machine translation
○工藤拓, 市川宙, 中川哲治, 賀沢秀人 (グーグル)
本論文は,日英機械翻訳における翻訳の困難さの原因を,(1)態の曖昧性,(2)ガ・ハに代表される表層格から深層格を推定する困難さ,(3)主語の省略とその補完の困難さ,という日本語の性質に置いています.その上で,これらを個々の問題として解くのではなく,互いに関係する課題として同時に統一的に解くモデルを提唱しています.また,このモデルを実際の翻訳タスクに適用し,BLUE と RIBES の評価値が向上することを報告しています.上記の課題を個々に解いた先行研究はありますが,本論文では,これらの課題を統一的に解く手法が示されており,実験においても評価値の向上が示されていることから,その新規性と有用性を高く評価します.
D3-1 識別的隠れ半マルコフモデルによるテキスト一貫性を考慮した単一文書要約
○西川仁, 有田一穂, 田中克己, 平尾努, 牧野俊朗, 松尾義博 (NTT)
本論文は,単一文書の要約を対象にし,ナップサック問題としての定式化とマルコフ性を考慮した確率モデルに基づく定式化という,ふたつのアプローチの短所を補いあう,ナップサック制約を伴う隠れマルコフモデルを提案しています.これにより要約の生成は,文の重要度と,連接する文間の結束性を目的関数として,動的計画法によってそれを最大にする文の縮約と組み合わせを求める問題となります.Rouge による評価が他手法と比べて高いことに加え,文法性や一貫性に関する人手評価でも優れた手法であることが示されています.既存手法の短所を補い長所を活かす優れた論文で,評価の分析をさらに深め,文書要約の方式として確立されていくことが期待されます.
A7-2 ガウス分布による単語と句の意味の分布的表現
○島岡聖世, 村岡雅康, 山本風人, 渡邉陽太郎 (東北大), 岡崎直観 (東北大・さきがけ), 乾健太郎 (東北大)
本論文は,単語の意味の広がりと,文脈によって生じる単語の意味の変化を統一的に扱う,新しい確率モデルを提唱しています.単語とその意味の相互作用を,平均と分散をパラメータとする因子関数で表現し,従属語が主要語に及ぼす意味の相互作用を,修飾関係に固有なパラメータを持つ因子関数で表現します.確率的勾配上昇法にモンテカルロ法を併用してパラメータ推定することで,現実的な計算コストでモデルが獲得できることを示しています.さらに,上位下位関係にある語や,目的語を伴う動詞の意味の限定がモデルで捉えられている様子が,モデル中の事例から伺われ,非常に興味深い結果となっています.今後のさらなる検証により,本手法の可能性がさらに解明されることが期待されます.
A7-5 大規模素性集合に対する教師あり縮約モデリング
○鈴木潤, 永田昌明 (NTT)
本論文では,教師あり学習のモデルパラメタ推定において,重みの異なり数を極端に小さく制限することによりモデルサイズを削減する,「縮約モデリング」と呼ばれる手法について,重みの値集合を高速に自動学習する拡張法を提案しています.モデルサイズの削減は,自然言語処理システムの学習データが大規模化している現在,非常に重要な研究テーマであり,著者らの提案する大規模素性集合に対する縮約モデリングが,本論文で提案された手法により,実用的になったと言える点で高く評価できます.
■若手奨励賞(5件)
D2-5 Spinal TAG のための高速な構文解析
木曽鉄男 (NAIST)
本論文は,近年高い構文解析精度が報告されているが計算量の大きさが課題となっている Spinal TAG による構文解析について,解析精度をあまり下げることなく,高速化を図ったものです.動的計画法に基づく shift-reduce 法を Spinal TAG へ拡張する手法が提案されています.また,前処理として,各品詞に対して K-best の基本木を割り当ててから解析を行うことで,更に解析速度が向上することを示しています.構文解析において,解析速度の向上は非常に重要な課題です.本論文では, Spinal TAG による構文解析で,非常に高速な解析が実現されており,その実用性が高く評価されます.
P5-7 述語項構造に基づくニューラルネットワーク言語モデルの学習
橋本和真 (東大)
本論文では,述語項構造(Predicate-Argument Structure, PAS)による構文情報を考慮したニューラルネットワークに基づく言語モデル(Neural Network Language Model, NNLM)である PAS-NNLM を提案しています.従来研究では動詞-目的語の組み合わせを取り入れた言語モデルが提案されていますが,この研究ではあらゆる述語項構造のカテゴリを取り入れることができます.また,多くの構文情報を利用した Deep Learning によるモデルと比較して,高い相関係数が得られています.実験結果より,この手法を適用する際の良い点や悪い点など議論も十分に行われ,有用性のある論文として十分にまとまっていると考えられます.言語的な特性を幅広く考慮した NNLM は意味概念を数理的に捉える上で今後の発展が期待されます.
A4-3 修辞構造と係り受け構造を制約とした単一文書要約手法
菊池悠太 (東工大)
単一文書要約において,従来から提案されている修辞構造に加え,文内の係り受けを表現する木構造を制約として利用し,整数計画問題として定式化する手法を提案しています.節を単位とした抽出において,従来手法の問題点である過剰な断片化を解決しつつ,文の根を含まない部分構造を抽出することができる等,魅力的な手法となっています.制約の設定やパラメータ決定に恣意的なものがみうけられるので,この点について検討を加え,手法の有効性をより明らかにされていくことを期待します.
E6-1 言語の逐次性は係り受け構造に影響を与えるか
能地宏 (総研大・NII)
言語に隠れた統語レベルのバイアスとして「逐次性」に着目し,ある文に対する逐次性を構文解析器が解析を行うために必要な記憶容量によって定義しています.また,係り受け構造における中央埋込の解析の認知的コストを推定する新しい左隅構文解析法を提案し,逐次性バイアスの存在を示唆する定量的な実験を行っています.このような文法に内在するバイアスを調べることは,言語の仕組みを理解するうえで重要であり,将来的に教師なし構文解析の発展につながる可能性を持つという点で言語処理の観点からも有用であるといえます.新規性と将来性を持つ研究テーマであり,今後のさらなる発展を期待します.
A7-3 係り受け関係を用いた句ベクトルの生成
村岡雅康 (東北大)
本論文では,分布意味論的なアプローチに基づき,ニューラルネットワークを利用して係り受け関係にある2つの単語ベクトルを合成する手法を提案しています.従来研究では,ベクトルの再帰的な生成,最適な学習パラメータ数でのモデル化,言語学的に根拠のある特徴の使用といった特徴を持つモデルが提案されていますが,この研究では合成時にあらかじめ定義された係り受け関係(形容詞+名詞など)に応じて重み行列を用意することで,既存研究の特徴を改良するモデルを構築しています.評価データを利用して得られた相関係数を比較した結果,この合成手法が従来研究を上回る性能を持つことが示されています.意味の合成に構文情報を利用するのは効果的なアプローチのひとつではありますが,手法の新規性や既存研究との比較による有用性も認められ,今後の発展と応用に期待できる研究です.
□第21回年次大会について
言語処理学会第21回年次大会の開催予定は以下の通りです.
日時: 2015年3月16日の週
場所: 京都大学
大会委員長: 菊井玄一郎 (岡山県立大学)
大会実行委員長: 河原大輔 (京都大学)
大会プログラム委員長: 加藤恒昭 (東京大学)
詳細が決まりましたら
http://www.anlp.jp/ で順次お知らせいたします.
□『自然言語処理』特集号テーマ募集のお知らせ
言語処理学会の論文誌『自然言語処理』では,1年に1号程度の割合で,特集号を企画し発刊しています.この5年間に,次のような特集号を発刊しました.
・コーパスアノテーション−新しい可能性と共有化にむけての試み− Vol.21 No.2
・災害情報と言語処理 Vol.20 No.3
・不自然言語処理 枠に収まらない言語の処理 Vol.19 No.5
・SemEval-2 日本語タスクを中心とする日本語語義曖昧性解消 Vol.18 No.3
・Empirical Methods for Asian Language Processing Vo.17 No.3
編集委員会では,特集号のテーマを随時,募集しています.アイディアレベルから,本格的な企画案まで,どのような提案でも結構です.ご提案がありましたら,お近くの編集委員,または,編集事務局(nlp-submit (at) anlp.jp)まで,お知らせください.
過去の発刊状況:
http://anlp.jp/guide/stat.html
会誌編集委員会:
http://anlp.jp/guide/editors.html
(会誌編集委員会)
□言語処理学会20周年記念シンポジウム 参加案内
隅田英一郎(会長,NICT)
言語処理学会は設立20周年を迎えましたが,これを記念して「言語処理学会20周年記念シンポジウム」を開催することになりました.このシンポジウムは言語資源,機械翻訳,社会応用などに関する招待講演と今後の方向性を示唆する記念講演を通じて自然言語処理における将来像を考えていく場と位置づけており,下のようなプログラムになります.自然言語処理の歴史,現状,将来についてご関心のある方のご参加を期待しております.
場所:東京大学 工学部2号館213号教室
日時:2014年10月4日(土曜日)
プログラム
13:00:開会
13:05:ご祝辞 喜連川優先生 (情報学研究所)
13:15:20周年記念論文 (授与と論文内容紹介)
13:50:招待講演1 前川喜久雄先生 (国立国語研究所)
14:30:《コーヒーブレーク》
15:00:招待講演2 渡辺太郎先生 (NICT)
15:40:招待講演3 岡崎直観先生 (東北大学)
16:20:《ブレーク》
16:30:記念講演 新井紀子先生 (情報学研究所)
17:30:閉会
18:00:交流会
20:00:散会
本シンポジウム関連の情報は下記のURLに記載されています.
http://www.anlp.jp/anniversary/20th_symposium.html
参加される方はこのサイトの「言語処理学会20周年記念シンポジウム 参加登録受付サイト」をクリックして受け付けサイトに入り,お名前などをご記入の上,送信ボタンを押してください.交流会は先着100名様ですので参加ご希望の方は受付サイトの交流会の「参加する」にチェックをお願いいたします.参加費5000円を当日受付にてお支払いいただくようお願いいたします.
実行委員会:
中川裕志 (委員長,東京大学)
隅田英一郎 (言語処理学会会長,NICT)
鶴岡慶雅 (東京大学)
鍜治伸裕 (東京大学,NICT)
相澤彰子 (情報学研究所)
宮尾祐介 (情報学研究所)
学会に関する問い合わせ先
中西印刷株式会社内 言語処理学会事務局
〒602-8048 京都市上京区下立売通小川東入ル
e-mail: nlp (at) nacos.com
ニュースレター担当理事
渡辺日出雄 (日本IBM株式会社)
e-mail: hiwat (at) jp.ibm.com