言語処理学会ニュースレター

Vol. 22 No. 2 (2015年6月12日発行)

目次

企画記事:国際会議参加レポート 第7回 COLING2014参加報告
2014年度論文賞の選考について
言語処理学会第21回年次大会(NLP2015)報告
言語処理学会第21回通常総会報告
第21回年次大会優秀賞・若手奨励賞の選考について
第22回年次大会について

企画記事:国際会議参加レポート 第7回 COLING2014参加報告

担当編集委員 小町守 (首都大学東京)

国際会議参加レポート企画として,昨年8月にアイルランドで開催されたCOLING 2014の参加レポートをお送りします.


 綱川 隆司 COLING 2014 参加報告(その1) - 概要 -
 URL: http://www.anlp.jp/doc/IC/ICreportv07/coling2014-1.pdf

 小早川 健 COLING 2014 参加報告(その2) - 評判分析研究に関して -
 URL: http://www.anlp.jp/doc/IC/ICreportv07/coling2014-2.pdf

 斉藤 いつみ COLING 2014 参加報告(その3) - 分野適応と知識獲得の論文紹介 -
 URL: http://www.anlp.jp/doc/IC/ICreportv07/coling2014-3.pdf

今回の会議報告は,電子情報通信学会言語理解とコミュニケーション研究会およびNLP若手の会と連携して企画しました.2014年9月11-12日に東京ミッドタウンで開催された第5回テキストマイニングシンポジウムと2014年9月21-23日に三浦海岸で開催されたNLP若手の会第9回シンポジウムのそれぞれで,小早川さんと斉藤さんに発表していただきました.COLINGの雰囲気の伝わる素敵なご発表でした.COLING 2016は大阪開催ですので,みなさまぜひ奮ってご投稿・ご参加いただければと思います.

2013年度論文賞の選考について

編集担当理事 2014年度論文賞選定委員長 田中久美子 (九州大学)

2014年に出版された自然言語処理21巻1号から6号(4号を除く)に掲載された論文(技術資料を除く)28編から相応しい論文を推薦することを目標として,査読点数が5点満点で4点以上の論文に加え,編集委員から推薦のあった論文1編を加えた計12編を対象に,以下の手続きで候補論文の選考を行いました.

(1)編集委員から構成される選定委員が,対象論文の中から,COIを考慮して割り当てられた論文を読んだ上で,一次投票を行いました.一論文あたり8名の委員が審査し,100%の投票率を得ました.

(2)高得点を得た上位4編の論文を対象に,COIのない7名を構成員とする最終選考委員会を編成し,委員が全論文を読んだ上で,二次投票を行い,審議を行いました。うち一次・二次投票ともに最高評価を得た論文1編を最優秀論文賞候補とし,また,残り三編も論文賞の候補として推薦することに,全員一致で決しました.

(最優秀論文賞)
タイトル:「日本語文章に対する述語項構造アノテーション仕様の考察」
著者:松林 優一郎,飯田 龍,笹野 遼平,横野 光,松吉 俊,藤田 篤,宮尾 祐介,乾 健太郎
発行号頁:Vol.21 No.2 pp.333-377

(論文賞)
タイトル:「否定の焦点情報アノテーション」
著者:松吉 俊
発行号頁:Vol.21 No.2 pp.249-270

(論文賞)
タイトル:「単語並べ替えと冠詞生成の同時逐次処理: 日英機械翻訳への適用」
著者:林 克彦,須藤 克仁,塚田 元,鈴木 潤,永田 昌明
発行号頁:Vol.21 No.5 pp.1037-1057

(論文賞)
タイトル:「日本語形態素解析における未知語処理の一手法 -既知語から派生した表記と未知オノマトペの処理-」
著者:笹野 遼平,黒橋 禎夫,奥村 学
発行号頁:Vol.21 No.6 pp.1183-1205

以上,4件の論文については第21回年次大会で招待論文として講演いただきました.

□言語処理学会第21回年次大会(NLP2015)報告

第21回年次大会委員長 菊井玄一郎 (事業担当理事・岡山県立大学)
同 プログラム委員長 加藤恒昭 (東京大学)
同 実行委員長 河原大輔 (京都大学)

◯ 場所・期日

言語処理学会第21回年次大会は,京都大学(京都市)において,次の通り開催されました.
    チュートリアル 2015年3月16日(月)
    本会議     2015年3月17日(火)〜19日(木)
    ワークショップ 2015年3月16日(月),20日(金),21日(土)

◯ 参加状況

事前受付 591名
当日受付 192名
招待者 33名
合計 816名 (欠席者8名を含む)

◯ はじめに

言語処理学会第21回年次大会を京都大学(京都市)において,2015年3月16日(月)から21日(土)にかけて開催しました.参加者は,事前受付591名,招待者33名,当日受付192名の計816名(欠席者8名を含む)と今までで最多となり,各セッションとも活気にあふれる大会となりました.

○情報処理学会全国大会と同時開催

今回は同時期に京都大学で開催された情報処理学会第77回全国大会と相互に後援する形式とし,広報面での協力や一部講演への招待など相互の交流を促す取組を行いました.当年次大会の参加者増にも少なからずインパクトがあったものと考えています.

○大会プログラムについて

内容は末尾の「プログラム概要」をご覧ください.
今回は,論文発表についての並列度の制約を若干緩め,5並列としました(昨年はテーマセッションを含む場合のみ,5並列を許し,一般口頭発表の並列度は4並列まででした).その他については,原則として昨年もしくはそれ以前からの手順を踏襲しました.今回は同時期に京都大学で開催された情報処理学会第77回全国大会と相互に後援する形式とし,広報面での協力や一部講演への招待など相互の交流を促す取組を行いました.当年次大会の参加者増にも少なからずインパクトがあったものと考えています.
・オープニングセッションおよびクロージングセッションの実施
・発表申込と論文投稿の一本化
・予稿CD-ROMの廃止
・招待論文講演
・優秀賞および若手奨励賞の事前選考と大会クロージングセッションでの表彰
これらについては,会場での印象もおおむね好評であり,年次大会のスタイルとして定着しつつあると認識しています.今後もこの路線をベースに,学会会員にとって貴重な情報交換の場となっている年次大会を発展させていくべきと考えています.ご意見やご提案がありましたら学会までお寄せいただければ幸いです.

○大会運営・収支について

立案・運営体制についても昨年までの方式を踏襲し,事業担当理事を中心とした大会委員会の下にプログラム委員会と実行委員会(現地)を配置して円滑な実施を図りました.また,参加証を現地配布にすることで事前申し込み期限の後ろ倒しを試みました.

会計的には,昨年度まで学会本体から受けていた活性化基金のサポートがなくなったものの,参加者数の大幅増と一部参加費見直しによる参加費収入増,昨年度を大きく上回るスポンサーの皆様からのご協力による収入増,また,京都大学大学院情報学研究科との共催による会場費の無料化などの支出減により黒字決算となりました.

○スポンサーからのご支援について

上でも触れましたが,本年も大変多数のご支援を賜りました.スポンサーとなっていただいた皆様に心より感謝いたします.また,本年はスポンサーの皆様との朝食会を実施させていただき,今後の協力発展に向けた実りある情報交換の機会が持てました.今後とも一層のご支援・ご協力をお願いいたします.

○おわりに

今回の800名を超える参加者は特別かも知れませんが,年次大会はコンスタントに600名を越えており,大会運営は難しくなってきています.その中で,年度末にかけてのお忙しい時期に積極的かつ効率的に仕事をこなして下さったプログラム委員の皆様,現地実行委員の皆様,そして,参加者の皆様の御協力により,今回の年次大会を無事終了できたことに,感謝いたします.

○第21回年次大会プログラム概要

論文発表(3月17日-19日) 総計276件
・ポスター発表 122件
・口頭発表(一般) 139件
テーマセッション発表 15件
「言語教育と言語処理の接点」
「言語探求のための数理的アプローチ」

招待講演
 ・安宅 和人 氏 (ヤフー株式会社)
   「Yahoo! JAPANにおけるビッグデータの活用とその舞台裏」(3月17日)

 ・酒井 邦嘉 氏 (東京大学)
   「脳の言語処理」(3月19日)

招待論文講演(3月18日)
 ・松吉 俊 氏 (山梨大学)「否定の焦点情報アノテーション」
 ・松林 優一郎 氏 (東北大学)「日本語文章に対する述語項構造アノテーション仕様の考察」
 ・林 克彦 氏 (NTT)「単語並べ替えと冠詞生成の同時逐次処理: 日英機械翻訳への適用」
 ・笹野 遼平 氏 (東京工業大学)「日本語形態素解析における未知語処理の一手法 -既知語から派生した表記と未知オノマトペの処理-」

チュートリアル講演(3月16日)
・杉山 将 氏 (東京大学)
   「密度比推定に基づく汎用的な機械学習技術」
・田 然 氏 (東北大学)
   「自然言語を意味表現に変換する手法と展望」
・藤波 進 氏 (株式会社サイバー創研)
   「言語データベースの制作公開と著作権」
・Graham Neubig 氏 (奈良先端科学技術大学院大学)
   「国際会議論文の読み方・書き方」

ワークショップ
・第11回 関西機械翻訳勉強会(3月16日)
・自然言語処理におけるエラー分析(兼:Project Next NLP報告会)(3月20日〜21日)

□言語処理学会第21回通常総会報告

総務担当理事 白井清昭 (北陸先端科学技術大学院大学)

・日時: 2015年3月18日(水) 11:20-12:20
・場所: 京都大学 吉田キャンパス 電気総合館 大講義室
・出席者: 57名,有効委任状141名(内 議長への委任 141名)

まず,隅田会長より挨拶がありました.続いて,2014年度論文賞の受賞論文のうち,最優秀論文賞の受賞論文が公表され,最優秀論文賞1件,論文賞3件の授賞式が行われました.

・2014年度 事業報告

隅田会長,佐藤編集委員長より,資料「第21回通常総会」に基づいて2014年度の事業報告があり,その内容が承認されました.

・2014年度 決算報告,監査報告

資料「第21回通常総会」に基づき,赤峯理事より2014年度の決算報告,浦谷監事よりその監査報告があり,いずれの内容も承認されました.

・2015年度 事業計画

隅田会長より,資料「第21回通常総会」に基づいて2015年度の事業計画の説明があり,その内容が承認されました.

・2015年度 予算案

赤峯理事より,資料「第21回通常総会」に基づいて2015年度予算案について提案があり,その内容が承認されました.

・討論内容

一般社団法人の定款案をウェブ公開したときの会員からの意見の内容について質問がありました.定款内の学会の目的を見直し,例えば社会に対する貢献を明文化してはどうかなど,いくつかの意見が寄せられたことが報告されました.また,例に挙げた意見に対しては,今回の定款の変更は法人化に必要な要件を満たすことのみを目的としているため学会の目的は現会則から変更せず,学会の目的の見直しについては理事会で今後検討しますと返信したことが報告されました.

一般社団法人に移行後,法人として外部組織との契約締結についてどのような態度で取り組むのかという質問がありました.税理士などの専門家の助言を仰ぎつつ適切に対応しますとの回答がありました.

一般社団法人に移行後は,予算の厳正な執行と予算執行の内容の会員への説明を十分に行っていただきたいとの依頼がありました.

一般社団法人になることで経費がどの程度増えるのかという質問がありました.税理士による財務管理に40万円,中西印刷への事務委託費に20万円ほど増えること,前者については任意団体のままでも健全な財務管理のためには税理士のチェックが必要なことから,実質の増額は20万円程度であるとの説明がありました.

・配布資料

第21回通常総会 資料  http://www.anlp.jp/doc/gm/gm21_2014.pdf

□第21回年次大会優秀賞・若手奨励賞の選考について

第21回年次大会プログラム委員長 加藤恒昭(東京大学)

 言語処理学会年次大会 優秀賞は,年次大会において,論文の内容に優れたものと認められた発表論文に与えられる賞です.また,優秀賞のうち特に優れたものがあれば,最優秀賞として選定されます(言語処理学会年次大会優秀賞規定).同様に,若手奨励賞は,年次大会において,論文の内容に優れたものと認められた発表論文の発表者であり,かつ,以下の条件を満たす者に与えられる賞です(言語処理学会年次大会若手奨励賞規定).

・年次大会の開催年の4月1日において満30歳未満のもの
・講演者として登録かつ講演を行ったもの
・過去に優秀賞を受賞していないこと
・過去に若手奨励賞を受賞していないこと

 従来,大会賞は,年次大会の終了後三ヶ月以上かけ審査し,表彰は次年度になされてきましたが,昨年より,参加者の利便性を考慮し,大会期間中に表彰することとしました.今年もこれを踏襲し,年次大会の開始前に全論文を対象に審査を行い,大会賞を決定しました.

 大会賞の選考のための内規では「優秀賞の中で特に評価の高いものを0件から2件の範囲で最優秀賞とする.優秀賞は全発表件数の約2%を目安とする.若手奨励賞の受賞者は数件(上限は5件)」と規定されており,今大会でもこれに基づいて選定を進めました.今回の年次大会では276件が優秀賞の対象となる論文であり,優秀賞の授賞件数は5件前後を目安としました.また若手奨励賞の対象となる論文は173件でした.

 前回大会に引き続き,選考委員会を組織し,慎重な議論を重ねた上で選定を行いました.今回,選考委員会は計94名で構成されました.各授賞論文には議論で合意された授賞理由が付記されます.また,責任を明確にするために,最終選考に関わる委員の名前を公表します.ただし,最終的な責任は委員長の加藤が負うものとします.

 大会賞の選考は,1次選考と最終選考の二段階で行いました.1次選考では全ての論文を三つのグループ(言語学・言語分析,基盤技術・言語資源,応用技術)に分け,各論文に対し二名の選考委員を割り当て,審査を行いました.選考委員はそれぞれ2〜10件の論文を担当し,各論文に対して,総合評価(5段階),新規性(5段階),有用性(5段階),読みやすさ(5段階),推薦理由を提出します.各グループの主査は選考委員の審査結果に基づいて論文を順位付け,各グループにおいて優秀賞候補4?5件,若手奨励賞候補4?5件を目安として候補リストを作成しました.この結果,優秀賞候補18件と若手奨励賞候補17件(うち4件が優秀賞候補をかねる)が最終選考へ進みました.また最終選考委員会の委員長は,利益相反を考慮し,加藤が担当しました.

 最終選考では,候補論文との利益相反を考慮して8名の委員からなる大会賞最終選考委員会を組織し,まず,上記18件の優秀賞候補論文を全員で審査しました.全選考委員による重み付き投票および遠隔会議による討議の結果,4件を優秀賞として推薦することとしました.今年は授賞件数の目安5件程度に従った数の受賞となりました.上記4件のうち,特に高い評価を集めた上位2件を最優秀賞として推薦することとしました.若手奨励賞については,最終選考では,1次選考で推薦された17件(うち4件が優秀賞候補をかねる)の中から,全選考委員による重み付き投票と討議の結果,まず優秀賞に選ばれた2件を除き,最終的に4件を若手奨励賞に選定しました.

第21回言語処理学会年次大会優秀賞最終選考委員会

 加藤 恒昭 (委員長,東大)
 小林 一郎 (お茶大)
 佐々木 稔 (茨城大)
 佐々木 裕 (豊田工業大)
 難波 英嗣 (広島市大)
 橋本 泰一 (LINE)
 吉田 光男 (豊橋技科大)
 吉田 稔 (徳島大)

■最優秀賞 (2件)

C1-3 テンソル分解に基づく述語項構造のモデル化と動詞句の表現ベクトルの学習
○橋本和真,鶴岡慶雅(東大)
 本論文は,動詞句の意味表現を動詞とその項の間の分散表現で表すモデルとして,述語とそれに関わる二つの項を,パラメタライズしたテンソル表現として扱うことで,動詞句の類似性を判定するタスクにおいて最高精度を達成しています.本研究では,動詞句をテンソル分解により表現する先行研究と類似した手法を用いていますが,テンソル表現によるモデリングが著者ら自身の既存モデルに対して新たにもたらす恩恵と,既存モデルにおいて特に貢献度が高いと予測されていた前置詞等の付加部に関する意味表現を考慮していることの効果を確認した点が本研究の成果として挙げられます.全体として論文の構成もしっかりしており,評価も丁寧に行われています.最優秀賞にふさわしい論文です.

A4-1 構成性に基づく関係パタンの意味計算
○高瀬翔,岡崎直観,乾健太郎(東北大)
 近年,分布仮説に基づく単語やコロケーションの意味ベクトル(Word Embeddings)の学習の研究が盛んに行われています.本論文は,単語を対象とするのではなく,ある事象の関係パタンの意味ベクトルを学習するモデルを提案しています.関係パタンをコロケーションとして扱うのではなく,関係パタンの機能的な表現と内容的な表現といった構成性を考慮してRNNをベースとして学習を行うことが特徴です.近年盛んに研究されている分野であるため,差別化することが困難ですが,本論文は,従来研究をよく調査し,提案手法の位置づけや著者が提案する手法の理論,実験的な優位性が簡潔によくまとめられています.そのため,論文としての完成度が他の論文に比べ非常に高いと判断し,最優秀賞として推薦します.

■優秀賞 (2件)

A3-4 不完全な文の構文解析に基づく同時音声翻訳
○小田悠介,Graham Neubig,Sakriani Sakti,戸田智基,中村哲(NAIST)
 話し手の発話音声を他言語の音声へと連続的かつ時間差を少なく変換し聞き手へ提示することを目的とする同時音声翻訳システムにおいて,処理の単位となる発話の部分をどのように翻訳するか,翻訳に伴う語順の変更がある中で提示のタイミングをどう決定するかという問題に挑んでいます.発話の部分に対して前後の構文要素を仮定して最終的な構文構造を推定し,その構文構造を翻訳することで適切な訳を得ると共に,後続要素の訳出の有無を判定して,提示が可能であるかの判定をしています.この優れた着眼をTree To String のSMTの枠組みで実現し,従来法と比較して精度の向上を確認しています.同時音声翻訳に重要な課題に挑戦し,そのアイディアが逐次的な言語処理において広く参照されるであろう点,今後の発展も期待できる点で優秀賞にふさわしい論文です.

D7-2 第二言語としての日本語版リーディングスパンテストにおける方略の個人差
○二口和紀子(名大)
 リーディングスパンテスト(RST)とは,短い文章を音読しながら文中の単語を記憶する被験者実験で,人間の言語処理における作業記憶の役割を調査するために使われます.本論文は,日本語習熟度が中級程度の被験者71名を対象にRSTを実施し,第2言語(L2)で行われたRSTの得点の低群と高群における方略の違いを分析して,第1言語(L1)の場合との比較において興味深い知見を提示しており,優秀賞に値します.今後,言語処理分野が心理言語学の研究成果を参考にすることで,研究領域がさらに広がっていくことを期待します

■若手奨励賞 (4件)

P4-7 DNN 事後確率系列の言語モデル化に基づく言語識別
増村亮(NTT)
 本論文では,Deep Neural Network(DNN)に基づき,入力音声に対する言語種別の識別手法を提案しています.フレームごとの音響特徴量に基づきDNNで事後確率を計算し,この事後確率系列から構築した言語モデルを使って言語識別をしています.従来研究では,音声認識器で音素系列を言語モデル化する手法やNeural Networkの事後確率を音響モデルの特徴量として利用する手法が提案されていますが,この研究ではDNN事後確率系列を言語モデル化する新たなアプローチで,事後確率系列をk-meansで量子化した離散系列を言語モデル化することが特徴です.実験の結果,フレームごとの独立性を仮定して言語モデルなしに言語識別する従来手法と比べて,識別性能を大幅に改善しています.手法に新規性があり,既存研究と比較して有用性もあることから,今後の言語識別の発展に大いに期待できる研究です.

C4-2 一般二項定理による多項式カーネルの拡張と学習
椿真史(NAIST)
 この論文は,句や文の類似度を計算する手法に,自然言語処理で通常用いられる多項式カーネルを一般化して,非線形類似度を計算する一般多項式カーネルを用いて文の意味の類似度を計算する手法を提案するものです.提案手法は意味評価のワークショップSemEval2014におけるデータセットを用いて評価され,ランキングで3位に位置づけています.これにおいて特筆すべきは,他の手法が大量の素性を用いている一方,提案手法はシンプルな文の意味表現ベクトル表現とその非線形類似度学習のみで最高性能に迫る好成績を挙げている点です.現在盛んに研究されている単語ベクトル空間において句や文の意味を表現する研究への適用が期待されるという点においても高く評価できる論文です.

E3-2 評判分析における品詞情報と意味類型情報の有効性比較
岡田正平(長岡技科大)
 本論文では,形状性・作用性の区別および4 種類の意味類型を利用する事により,品詞のみを利用する場合と比べ,評判分析の性能が向上することを示しています.実験設定に関する制約事項の記述,ならびに結果に対する考察および誤り分析が丁寧に行われており,今後,意味類型情報を利用する研究者の指針になり得ると考えられます.実験範囲を限定して丁寧な分析が行われていますが,意味類型情報を他の情報と組み合わせた場合の分析,評判分析以外への応用など,さらなる発展を期待します.

C7-5 事態間知識における項の対応付け学習
小浜翔太郎(京大)
 この論文は,良く起こる出来事のペアを,項の対応まで考慮して獲得するという「事態間知識の獲得」のタスクにおいて,新たな手法を提案するものです.従来手法において,類似度による単純なヒューリスティクスを用いていた部分を,機械学習により精緻に扱うことで,精度の向上を図っています.評価ではクラウドソーシングを用いていますが,従来手法を利用することで,判定の信頼性を上げるなど丁寧な実験が行われ,評価結果も,ベースラインから大幅な精度向上が見られています.以上より,先進的な研究テーマに取り組み,そこでの新たな手法の提案,また,丁寧な実験と,ベースラインに対する優位性という形で,一つのまとまった論文となっているという点で,高く評価できる論文です.

□第22回年次大会について


言語処理学会第22回年次大会の開催予定は以下の通りです.

日時: 2016年3月6日(日)〜10日(木)
場所: 東北大学 川内北キャンパス(仙台駅から地下鉄で6分)
大会委員長: 加藤恒昭 (東京大学)
大会実行委員長: 乾健太郎 (東北大学)
大会プログラム委員長: 森辰則 (横浜国立大学)

詳細が決まりましたら http://www.anlp.jp/ で順次お知らせいたします.

学会に関する問い合わせ先

中西印刷株式会社内 言語処理学会事務局
〒602-8048 京都市上京区下立売通小川東入ル
e-mail: nlp (at) nacos.com

ニュースレター担当理事
渡辺日出雄 (日本IBM株式会社)
e-mail: hiwat (at) jp.ibm.com