■10周年記念論文賞を頂いて■
黒橋禎夫(東京大学大学院情報理工学系研究科)
長尾真先生との共著論文「並列構造の検出に基づく長い日本語文の構造解析」(Vol.1.No.1,1994)に対して、学会から10周年記念論文賞を頂きました。大変に名誉なことであり、これを励みとしてさらなる精進を続けたいと思います。
この仕事は博士論文「大域的手法による日本語文の高精度な解析に関する研究」の一部として、実際には1992年頃に行いました。当時、構文解析のモデルは多く提案されていましたが、実際の文を解析しようとすると曖昧性が爆発し、途中で解析が止まってしまうことも少なくないという状況でした。我々は、実際の文に多く含まれる並列構造の扱いの不十分さがその原因であると考え、まず、句や節の類似性に着目して並列構造を高精度に検出する論文を発表しました。次に、並列構造の解析結果を用いて日本語文の構文解析を行う方法を示したものが今回賞を頂いた論文です。論文のタイトルが「長い日本語文の解析」となっていますが、それは当時モデル的に扱われていたサンプル文に比べて長いという意味で、実際には我々が日常的に目にする「普通の文」の解析を扱ったものです。逆に言えば、このような方法によってはじめて普通の文の構文解析が可能になったということができます。さらに、用例に基づく格解析の方法の提案を加えて博士論文をまとめ、また、これらをソフトウェアとして整備し、KNP(Kurohashi-Nagao Parser)と名付けて公開しました。
その後、KNP(およびJUMAN)の自動解析結果を人手でチェック・修正することによって、自動解析システムを改善していくとともに、正しい形態素・構文情報を付与したコーパスを作成し、京大コーパスとして公開しました。JUMAN、KNP、京大コーパスは、海外を含め多くの研究機関等で利用して頂くことができ、現在でも様々な問い合わせ、フィードバックを頂いています。
さて、この10年間で計算機環境、ネットワーク環境、そして何よりも言語資源環境が劇的に進歩し、いよいよ言語情報処理の重要な課題である意味、理解などの問題に本格的に挑戦できる準備が整ったのではないかと思います。このようなタイミングでこの研究分野に関われることを幸せに感じますし、またこの分野のさらなる発展に少しでも貢献できればと思います。
最後に、このような魅力的な分野に導いて下さった長尾真先生、また非常に知的でまた刺激的でもあった、辻井潤一先生、故中村順一先生、佐藤理史先生、松本裕治先生、中村裕一先生、野田五十樹氏、伝康晴氏、宇津呂武仁氏をはじめとする長尾研究室の方々に、あらためて感謝したいと思います。
■第11回年次大会のお知らせ(予定)■
開催地: | 香川大学工学部
(
http://www.eng.kagawa-u.ac.jp/) |
日程: |
チュートリアル: | 2005年3月14日 |
| 本会議: | 2005年3月15〜17日 |
| ワークショップ (2件): | 2005年3月18日 |
実行委員長: | 青江順一先生(徳島大学) |
プログラム委員長: | 荒木健治先生(北海道大学) |
(詳細は、次号ニューズレターでお知らせします。)
おわりに
10周年記念論文賞、2003年論文賞については、先の総会で表彰が行われております。今号の内容は、既に報告済みのものもあったのですが、論文賞等の特集としてニューズレターとしてまとめました。また、黒橋先生には特にお願いして、受賞者の立場で、あるいはちょっと客観的にコメンテータの立場と言うことで寄稿して頂きました。(田村)
(財) 日本学会事務センター破産の件に関しましては、当言語処理学会についても被害が予想され、理事会でも急遽対応が検討されております。状況については、別の機会にお伝え致します。
ニュースレター担当(田村直良)
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